July 16th, 2000
★ ★ ★
よく飽きないもんだなぁ。
毎日毎日女の子に声かけながらうろうろしてさ。
しかもほとんどが断られてんじゃないか。
そりゃそうだよな…。
自分に声かけてきたって次の日には別の子追いかけてんだ。
そんな先のない付き合いに乗るわけもない、と。
実は、女の子たちってものすごい現実主義。
男の方がロマンチストだったりするんだよね。
確かにあいつは……シーナは、男の僕の目から見ても綺麗な顔立ちをしてる。
お母さんのアイリーンさんにそっくりだ。
あの顔つきにショートの髪、スレンダーな見た目なのに意外とがっしりしてて。
あれで身持ちが堅ければ、今みたいな「それなりにモテる」どころじゃなくなるのに。
まぁ、僕がどうこう言えるもんじゃないし。
…というより、言うつもりもないね。
グレミオなんかは、
「全くなんだってあんなに不道徳なんでしょうかね。ぼっちゃん、あんなのと付き合っちゃいけませんよ」
なんて言うけど。
……うん、全くその通りだと思うよ。
あれは軍の風紀的にどうだろう。
そうも考えるんだけど……いちいち関わるのも面倒だなぁ……。
部屋に戻ってみると…案の定。
「おかえりっ♪」
思わず僕はせっかく開けたドアをばたんと閉めた。
僕はなにも見なかった、と。
さあて、マッシュと次の軍議の打ち合わせでもしてこようかな。
くるりと回れ右をして。
すると部屋の中でバタバタと物音がして、勢いよくドアが開く。
「待て、待てったらレイ! なんでそんな嫌そうな反応するかな」
「……嫌だから」
「まぁまぁ、そう言うなって。休憩なんだろ?」
言ってシーナは笑う。
…と思ったら、僕の肩に手をやると僕を部屋に押し込めた。
ったく、なんなんだよこいつは。
けど何言ったって強引に来るもんな。
僕は息を吐いて、部屋に堂々と置かれた新品のイスに座り込むとテーブルにひじをついた。
それはぎしっと軋んで、少し座りにくい。
シーナはわざわざイスを僕の隣にまで持ってきて座り込むし。
「…あのさぁ。ここ僕の部屋だって知ってる?」
「もちろんv」
「じゃあなんで君がここにいるの?」
「そりゃあオレとおまえは大の仲良しだから、に決まってるじゃないか」
はぁ?
僕はぽかんとシーナを見つめた。
「…それって、理由になってないんじゃないか…」
「お」
とたんにシーナがにやにやと笑い出す。
そして何を言うかと思ったら。
「ふーん。…なあレイ、それって『大の仲良し』ってところ否定してないよな」
「!!」
しまった。
そんなつもりじゃなかったのに、言葉尻をとらえられてしまった。
なんか悔しい…。
「……だけど勝手に入ってくるってどうかな。不法侵入になるよ?」
ふふん、これに言い返せるか?
そうしたら。
「親父に聞いたぜ。レイ、オレん家に不法侵入したんだってな」
「ぐ……っ」
ほんとーに、何なんだコイツはっっっっ!!!!!!!
それから僕たちは、しばらく他愛のない話をしていた。
なんだ、シーナも普通の世間話ができるんだ…とは思ってたけどね。
軍のあり方がどうだとか、帝国がどうだとか、妙に真面目な話ばかりをしていた気がする。
だから、よけいに唐突に思えた。
いったいどこからそんな話がでてきたのか。
話の内容も手伝って、僕にはついていけなかった。
それは、会話がとぎれて一瞬不自然な間があいた時だった。
シーナが僕をじっと見ているのに気付いて…。
「なに?」
と聞いた。
シーナは何気ない風でひとこと。
「レイってさ…綺麗な顔立ちしてるよな」
「は……?」
聞き間違いかと思った。
きっとそのときの僕は、豆鉄砲を食らったような顔をしていただろう。
なのにシーナは、そんな僕に気付いてないのか、気付かない振りをしてるのか。
それとも今から思うと、僕の反応を楽しんでたんだろうか。
だとしたら、確信犯だけど。
にやにや笑ったまま、シーナはぐいっと顔を近付けてきて。
「まつげ……長いんだな。この芯の通った瞳…形のいいくちびる……。パーツがいいのはもちろんだけど、それが全部バランスが取れてんだ」
ふと垣間見える真剣な表情(かお)。
息のかかる距離。
そんなものを呆然と見ていた僕は、そこでようやっと我に返った。
「いったい何を言い出すんだよ、シーナっ!」
本能が僕に危険を告げる。
だから僕は両手でシーナの肩を押さえて突っ張った。
「何をって…告白に決まってんじゃないか」
「…いつもこうやって女の子口説いてるんだ?」
「んー。今日は特に念入りに」
「…なんで」
「相手がレイだから」
「だから、どうして」
嫌な予感ってものを直に背中に感じながら、それでも僕は聞いてみた。
……やっぱ聞かなきゃよかったけど。
「だってオレ、レイが好きだから」
!!!!!!!!!!
気が付いたら、シーナを突き飛ばして走り出していた。
開けっぱなしにしたドアの向こうでものすごい音がしたけど、それどころじゃない。
僕は転げ落ちるぐらいの勢いで駆け降りた。
途中で誰かとすれ違って声をかけられた気もした。
でもそれに気が付く余裕なんてなかったし。
僕はそのままの勢いで厨房へ駆け込んで。
「グレミオっっっ!!!」
僕が呼ぶ(叫ぶ?)と、グレミオはひょこ、とのんきな顔を覗かせた。
「ぼっちゃん。どうしたんですか、血相を変えて」
にっこりと、人のいい笑顔。
いつもはそれで大抵落ち着いてしまう僕だけど、今日はそうもいかない。
ばたばたと走って、グレミオに飛びついた。
「ぼ、ぼぼぼぼっちゃん!? どうしたんですか、何かあったんですか」
そんな僕にグレミオは同じ質問をしてきた。
僕はグレミオの顔を見上げて。
「ねぇ、グレミオ。僕のこと、好き!?」
「…えっ!?」
瞬間的にグレミオがゆでダコみたいになる。
グレミオはそんな真っ赤な顔で僕をびっくりしたように見つめてくる。
「とっ、突然何を聞くんですかっ……。そ、そんな…。も、もちろんグレミオはぼっちゃんのこと、す、好きですようっっ!!!」
「どんなふうに?」
「え……ど、どんなふうにって…」
グレミオはますます困ったように目を泳がせる。
「そりゃあ…えぇと…まず、家族としても好きですし、主としてももちろん好きですし、リーダーとしてのぼっちゃんもとても好きですし、あの……えー……ですから、その……それから…それから…えぇ……」
なんだか自分でも何しゃべってるのかわかんないらしい。
えぇと、を繰り返すグレミオに、僕は何となく抱きついた。
とたんにグレミオがわたわたと慌てだす。
けど僕の思考はもう外に飛んでいた。
そうだよな…「好き」ってたくさんある。
父さんに対する「好き」。
グレミオに対する「好き」。
テッドに対する「好き」。
クレオに対する「好き」。
パーンに対する「好き」。
家族だけじゃなくて…仲間に対する「好き」も、恋人に対する「好き」も、様々な意味がある。
たとえば、解放軍のメンバーから「好き」って言われても、それはリーダーとしての僕に信頼を寄せてくれてるんだって僕は思うだろう。
…なのに。
なんで僕はシーナの「好き」が怖かったんだろう。
なんで僕はシーナから逃げたんだろう。
……あれ。
逃げた?
この僕が?
とたん、胸の奥がなんだかもやもやしてきた。
なんだかものすごく腹の立つ……っ。
「グレミオっっっ」
「は、はいっっ」
「おなかすいた、ごはんっっ!」
「あ、今すぐっ」
僕がご飯を食べていると、のこのことシーナが食堂に入ってきた。
「やっと見つけたぜ、こんなとこにいたのか」
……無視。
「なぁなぁったら。レイっ」
……知らないよ。
「ぼっちゃん? って、あ!! シーナくん、ぼっちゃんに何するんですかっっ!!」
「何…って。肩に手置いてるだけっスけど」
「はっ、離してください!! あなたのような不道徳な方はぼっちゃんに近付いちゃダメです!!」
「えー。そんなことないですよー。な、レイ?」
あああああ、もう、うるさいっっっっっ!!!!
僕の周りに静かな場所はないのかーーーーーーっ!?
Continue...
<After Words> |
ああ…とうとうまずいところに陥ってきちゃった感じですねー。 さて…これからどうしましょうかねえ。 というより、ほぼシリーズ化してしまいそうなところをつっこむべきですか? それを考えるとこれから先長いなあ……。 まぁ、次回あたりでタイトルのオチは付けばいいな、と思ってます。 予定は未定ですけどね。 |