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こんなに部屋が広かったなんて知らなかった こんなに部屋が静かだなんて知らなかった 大きく ぽかりと 開いた穴 部屋の中にも 胸の中にも 閉め切った部屋には 風なんて吹くはずもなくて それでも この大きな穴に 風の吹き込む音がする それは たぶん 空耳だけど 在ったものは 必ずいつかなくなるって そんなことにはなんとなく気付いてた だから それは人にも言えるんだって 心のどこかで知っていた そうして それはいつか時間が経てば 薄れていってしまうのだということも どんなに強い思いでも 消えていってしまうのだということも そうやって 忘れていくから生きていられるのだと 昔 どこかで聞いた 忘れずにいようとしても その膨大な質量に 人は耐えられないのだと聞いた たしかに それがどんなに悲しくても 生きていく中で それはひとつじゃない いくつも いくつも 抱えきれないほどあって いつも 僕たちを苦しめている だから 片っ端から忘れていかないと 僕たちは壊れてしまうんだそうだ 僕は それを知っている 僕は それを知っているから この なにもない部屋の中でも ちゃんと息をして ちゃんと生きているんだと思う それって仕方のないことだから 在ったものは いつか 必ず 消えてしまうから だから 哀しみも 消えてしまうから 大切な人を 大切なものを 忘れてしまっても いいんだよ それで いいんだよ 誰も それを 責められはしないんだよ でも 時々思う 僕はなぜ 生き残ってしまったのだろうかと |
<Comment>
こちらも、他ジャンル越境作。
過ぎてしまうと、1年てなんて短いのでしょうね。
人は、忘れる生き物だそうで。
実際に忘れないと生きられないそうですね。
でも、それが悪いとは思わない。
どんな思いでも忘れ去られてしまうから、
そのときそのときで力の限りに思っていることで、
それだけでいいんじゃないかと。
…それを肯定した上で。
自分に対しては、それを否定してしまう心のあり方。
それは何よりも悲しいあり方かもしれません。