First Contact
− 2 −

「……会議は?」
「今やっと終わったとこ。いや、終わらせたって言うべきかな。こんなに話し合いが多いものだとは知らなかったよ」
 言って苦笑する。
 そうだろう、実戦以上に打ち合わせは大きな意味を持つ。
 大昔の、食糧を巡っての戦いならまだしも、ひとつの国を解体するか否(いな)かの戦いだ。
 体力より知力戦だったりする。
 そう言うと、レイはまあね、と笑った。
「たった一隊の隊列で勝敗が決まったりするんだもんね。ほんと……難しいよなぁ」
「やめたい?」
「……やめられないよ。こんなに期待されてるとね。だーいじょうぶ、精一杯やるからさ」
 レイの答えに、ルックは肩をすくめる。
(…本音、みたいだね)
 あれほど不安がっていたのに、この変わりようはなんだろう。
 一緒にいればいるほど、レイは自然に笑えるようになってきた気がするけれど。
 ───おそらく、はじめは不安でしかなかったリーダーとしての職務が、逆に気休めになってきているのだろう。
 深く考えるよりは、何も考えずに動いた方が楽なこともある。
「まぁ……無理をしない程度に頑張るんだね」
「ありがとう」
 レイのくすぐったそうな笑顔。
 つい……よかった、と思ってしまうのだ。
 まったく、レイとは不思議な魅力を持った人物だ。
 レイの笑顔に、ルックは肩をすくめて返す(笑ったりしないところがルックらしいが)。


 ……と。
 廊下をばたばたと走る音が遠くで聞こえた。
 それを聞いたとたん、レイがあからさまに「げっ」という顔をする。
「あいつだ……」
 慌てた様子でレイが立ち上がる。
 つられてルックも立った。
「……あいつ?」
「あぁ……聞いてないかな。シーナって奴なんだけどさ」
「それって……放蕩息子って呼ばれてる……」
「そう、そいつ。……最近つきまとわれちゃってさぁ…」
「レイに? 女じゃなくて?」
「……まったく、頭に来るよね。僕のことなんだと思ってんだ、って」
 だろうな、と思う。
 レイは自分の中性的な顔立ちを気にしている。
 男につきまとわれる、というのは、レイのそのあたりのプライドに思いっきり障ることだろう。
「じゃごめん! とりあえず僕逃げるね。またあとで!」
「……じゃあね」
 よほど気になることを言われたのだろう。
 脇目もふらず、レイは走り去る。
 ……しかし、これではこのフロアもうるさくなるだろうか。
 そう思って、どこか静かなところに移動しようと部屋から足を踏み出した────。





     どんっっっ





「った……」
「…ってぇーっ!!」
 なにかと衝突したらしい。
 尻餅をついてしまったルックは、限りなく不機嫌そうに頭を振る。
 見通しのよい直線と、見通しの悪い部屋からの左折の衝突事故。
 これはどう考えても向こうが悪い。
 いや、どっちにしたって向こうが全面的に悪い。
「……どこ見て歩いてるんだよ」
 完全に怒気をはらむルックの声。
 歩いて、というよりこの場合走って、なのだが、今のルックにはむしろそんなことはどうでもいいようだ。
 重要なのは、弾き飛ばされた、という事実だ。
 このルック、自慢ではないが、プライドがとてつもなく高い。
 プライドを傷つけた者は万死に値する、と思っている。
 ……だが、相手は体を起こして、のんびりと頭をさすっている。
 ベリーショートの金髪。
 だらだらとした服の着方。
 ルックの頭はすぐにひとつの回答をはじき出した。
(こいつが例の……どうしようもない放蕩息子か)
 たしかに、いい生まれ育ちのおぼっちゃまらしい物腰だ。
 口を開かなければ。
「いやー、ごめんねぇ、レイの声がしたもんだから、つい…。…………!」
 ぴたり。
 そいつの動きが止まった。


 あまりにじっと凝視されて、ルックの悪い機嫌がさらに悪くなる。
「……何か用?」
 すると。
 シーナはふいにルックの左手をぐいっと引き寄せた。
「! なにすんのさ!」
 ほぼ抱えられるような体勢になってしまって、ルックは抗議の声を上げる。
 しかしそいつはどこ吹く風。
「あぁ、よかった。探してたんだよ、君のことを」
「……は?」
「そう、オレは君に会うために生まれてきて、今までずっと探してたんだぜ。なんでそんなことがわかるかって? 簡単だよ、ほら……君の左手の薬指…ふたりにしか見えない赤い糸が見えるかい?」
「…ちょっと」
「この糸は、この世に生を受ける前からずっとこの指に絡まっていたんだよ」
「ちょっと」
「さぁ今こそ、前世からの約束を───」
「あんた、人の話聞いてんの!?」
 ルックの機嫌は最高潮に悪い。
 きょとんとしたシーナを睨みつけ、きっぱりと言い放ってやる。
「あのねぇ。僕は男だよっ! あんた目が腐ってんじゃないの!?」
「へ?」
 シーナはさらに目を瞠(みは)った。
 ルックはわかったか、という顔をする。
 ……のだが。
「そっかぁ……男かぁ。でもまぁ、いいや」
「は!?」
「恋愛ってさ、障害があるほど燃えるもんだろ? ふたりで禁断の愛を貫こうぜv」
 この男……。
 握りしめた右手が、震える。
「なぁなぁ、オレ君に運命感じちゃった。ね、名前なんていうの?」
「……あんたに名乗る名前なんかないよ」
 安全装置、解除。
「んー。可愛いっv」
 シーナがルックにぎゅう、と抱きついた。





「……〈切り裂き〉っ」





 記念すべき、〈切り裂き〉第1号。





 のちにシーナは、
「いやー、あの時はいつも以上に名言が浮かんじゃってさー。やっぱりオレとルックって運命なのかなーって。え? レイ? もちろん大好きだぜv ふたりともなv」
 それ以降、レイとルックの結託がより強くなったというが、それはまた次のお話で。
 すべてはそうして始まったのであった。





Continue...




<After Words>
今回の更新にあたり、
「あれ、今回ってシーナ関係のお話ないじゃん。こりゃやばいわ」
と思って急遽書いたお話。
よく考えたら、何がやばいんでしょうね……。
おかげで、1回の更新につき上限4作、のはずが越えちゃいましたね。
別に上限がある必要はないんですけどね。
上限でも作っとかないと、そのうちネタが切れ……あわわわわ。
早すぎるってば。
わたしってもともとネタが豊富にあるわけじゃないですからね。
書けなくならないことを祈るのみです。ほんと。
でも、この話は書かなきゃいけない話だったしー。
これ書いておかないと、トライアングルの3が書けないし……。
って、トライアングルにまだ続きあるの!?
とか思われたかもしれないですけど…たぶんあります。
いや、あるな。
それでいつか、ぼっちゃん視点とルック視点とシーナ視点ができて
真実のトライアングルが!! …なーんてね。



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