君ノトナリ。
− 2 −

 こそこそと見つからないように食堂を出ていくシーナの後ろ姿を結局最後まで見送ってしまった。
 と、背後に気配。
「楽しそうだね」
「へ? 誰が?」
 誰だかはわかってたから、振り返りながら問い返す。
 振り向いた先で、ルックは呆れ顔だ。
「他に誰がいるんだよ」
 …もしかして、ずっと近くにいたのかな。
 で、僕たちのやりとりを見てたとか?
 ルックはシーナが今まで座っていた椅子に座りながら、ちらりと僕を見る。
「レイ、いつのまにあいつと仲良くなったわけ?」
「はぁ? あいつって? ……シーナぁ!?」
「だから、他に誰がいるんだって。僕はレイってシーナのこと嫌ってるのかと思ってたんだけど、勘違いだったみたいだね」
「ちょ…っ、待ってってば、ルック! 僕は別にあいつのことなんてなんとも……」
 そうだよ、チャラチャラしてて人の話聞いてなくて、自分勝手で…。
 って、あれ。
 えぇ?
 僕…そういえば、シーナのこと、変なヤツだと思うしうっとうしいとは思うけど。
 ……嫌いだって思ったことは…ないかも。
 それどころか「嫌いじゃないかも」とかって思ったことがあったような……。
 えええ?
 そんなふうに悩み込んだ僕に、ルックは溜め息をつく。
「やれやれ。すっかりほだされてるね」
「え…っ。そ、そうかなぁ」
「…自覚なかったわけ。レイって案外鈍感なんだ」
 い、いや、そう……なのかな?
「まったく…。よく自分を『好き』だなんていう男と一緒にいられるもんだね」
「あ」
「…それさえも忘れてたわけ?」
 やっぱり僕って鈍感なんだろうか。
 今の今まですっかり忘れちゃってたけど。
 あんなにインパクトがあったっていうのに…。
 それって、『ほだされてる』ってことなのかなぁ。
 ルックは呆れ顔で肩をすくめる。
 だろうね、僕も僕のことがよくわからなくなった。
 そんな僕を見て、ルックが何か言いたそうだったけど……。





 そして次の日。
 空は昨日までの長い雨が嘘だったようにすっきりと晴れていた。
 でもやっぱりその雨のせいで周辺地域にも被害が出たところがあるらしく、事態の把握と救援も含めて見回りに行こう、という話になった。
 途中道も悪いってコトで、人数は最小限にとどめて。
「えぇっとね、じゃあ前もって連絡しておいたとおり…グレミオと、ビクトールと、ルック…お願いできる?」
「あとオレも」
 ………。
 僕とマッシュとサンチェスとその3人しかいなかったはずなのに、気がつくと後ろにシーナがいる。
 僕がちろりと視線をやると、ひらひらと手を振って、
「オレも一緒に行くぜv」
 やれやれ。
 滅多にそんなコト言わないくせに。
 いいよ、どうせ断ってもついてくるんだろ。





 残った雨粒の光る木の下を歩きながら、僕は…「まただ」と思った。
 このごろ、いつも気がつくとそばにシーナがいる。
 あまりにも頻繁なものだから、なんだかそれが日常なような気がしてしまう。
 ……今も。
 僕は、昨日の食堂からの逃走経路で起きた珍事を楽しそうにしゃべるシーナの顔をじっと見た。
「───そこでその壺がさぁ……。ん? どした、レイ」
「んー? 最近、シーナってよく僕のそばにいるよね」
「あ、なんだ。そんなこと?」
 たしかにそんなこと、なんだけどさ。
 気になったんだ。
 なぜか。
 でも、僕はその答えを聞いてあぜんとした。
「オレが、そう決めたから」
「……は?」
「レイの隣はオレの場所、ってさ。いわば定位置ってヤツ?」
 そんな決まりがいつのまにできてるわけ…。
 僕は強引な論理に半ば呆れて、笑う顔を見返した。
 けどシーナはそんなことどうでもいいみたいで、
「ほら。オレって…まぁ自分で言うのもなんなんだけどさ、こーゆー性格じゃんか。物事を難しく考えるのも嫌いだし、ジメジメしてんのも得意じゃないし。…オレと一緒にいるとさ、すっごくラクな気しない?」
「…シーナ」
 あれ。
 なんだろう、ものすごく……。
「ま、簡単に言っちゃうとね。オレがレイに惚れてるからね、ただ一緒にいたいだけって噂もあるんだけどさ。レイとルックのそばにいられれば、オレは幸せだしな。な、ルックv」
「そこで僕に振んな」


 あー…なんだか、ちょっと…嬉しいかも。
 そっか、だから僕はシーナと一緒にいたのかな。
 シーナといると楽だから。
 どんなに大変なことでも、シーナに話してしまえばシーナは「なんでもないこと」にしてくれる。
 それってすごく、楽だ。
 もちろん悪い意味でなんかじゃない。
 やたらと重くなってばっかりなリーダーとしての責務を、心ごと軽くしてくれる。
 …誰かがそばにいてくれること。
 それがこんなにあったかいということに、改めて気付く。
 僕って、こんなあったかい思いに包まれているんだね。


「ありがと」
 僕は、そうとだけ、告げた。
 シーナがぱちくりと目を見開く。
「…珍しいな。レイがオレにそんなこと言ってくれるなんて」
「珍しいんだから、ちゃんと聞いとけよ? 一度しか言わないから」
 そうして僕は周りを見回す。
 グレミオとビクトールは少し離れて後ろを歩いてる。
 ルックと目があうと、仕方ないなって顔で目をそらしてくれた。
 …人に聞かれてるってわかってて、面と向かってなんかこんなセリフ、吐けるもんか。





「……僕の隣は、おまえのために空けといてやるよ。そのかわり、……空席は認めないからな」





 シーナがぴたりと立ち止まる。
「レ、レイ…」
「……。なんだよ」
「あっ、愛してるぜ───っ!!」
 いきなり、ぎゅう、とシーナは僕を(しかもルックを巻き込んで)抱きしめてくる。
 …ったく、この男は───!
「僕は愛してないからなっっっっ!!」
「またまたぁ。照れちゃってv それよか、もいっかい言ってv」
「一度しか言わないって言ったろ!」
「…それより僕を放してくんない」
「あああああぁぁぁっ!! ぼ、ぼっちゃんに何するんですかー!!」


 前言、撤回。
 やっぱキライだ、こんなヤツ───!!





Continued...




<After Words>
カナイ様のサイト「空の青 海の蒼」1周年記念に捧げたものですv
大して捧げられるレベルになってないのが……大打撃。
一応タイトルは違いますが、トライアングルの流れです。
通しタイトル風に呼ぶなら「トライアングル4.5」ですかね。
次回、トライアングル5に続きます!!



戻るおはなしのページに戻る