トライアングル4
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 にしたって、ちょっとばかり大変なことになったなぁ。
 3人いっぺんに本拠地から消えちゃって、問題にならないといいんだけど。
 マッシュには言ったから大丈夫だとして…他の誰が気付くかわからないし。
 …あー、シーナはいっつもフラフラしてるから、いないことさえわかんないかもしれないけどさ。
 僕は浅い溜め息をつく。
 すると、当のシーナが僕の顔を覗いてきた。
「どした? レイ」
「さすがに3人で一度に行方不明ってのはマズイかな、と思ってさ。…まぁ、僕とルックがいない時点で既にヤバイんだろうけど、ホントは」
「あははっ。まあなぁ。けど気にすんなって。レイとルックはともかく、オレは誰も探しゃしねぇよ」
「わかってんじゃん」
「うっわ。そう来たか」
「…じゃあ違うこと言おうか? 『父君は探していらっしゃるのではありませんか? ご両親がご心配なさっておられるでしょうから、早速シーナ殿の居場所をご報告いたしましょう』」
「あ─────!! それだけはカンベンっ!!」
 シーナは両手を高々とかかげておどけてみせる。
 何それ。
 もしかして「降参」ってこと?
 そのオーバーリアクションに、僕はつい吹き出してしまう。
 何やってるんだろ、僕たち。
 するとルックがすかさず、
「…何ふたりで漫才やってるんだよ」
 呆れたようなツッコミ。
 そうだろうな、これって漫才にしか見えないだろうね。
 わかってるんだけどさぁ……相手はシーナなんだって。
 やたらとちょっかい出してきて、うっとうしいだけなはずの。
 …本当に、どうしようもないヤツだよ。
 突然人の前に現れて、つきまとって、「好きだ」なんて言いだして。
 こんなに僕を引っかき回していくんだからさ。
 軍主としてちゃんとしていかなきゃいけないのに、シーナはそんな僕のリズムを狂わせてしまう。
 迷惑だ。
 ……と、思ってるハズなんだけど。
 なんだろう…僕、安心してる?
 どうしてなんだ?
 惑う心が安定する。


「それにしたっていつの間に僕の術に潜り込んだのさ」
「ふたりのすぐ後ろに立ってたんだけど」
「…転移魔法に気付かれずに紛れるだなんて、非常識にもほどがあるね」
「だってオレ、いっつもルックの魔法受けてるから。免疫ができてんじゃないの」
「それとこれとは別物なんだよ」
 ぼんやりする僕の隣で、シーナとルックが珍しく話をしてる。
 あ、珍しくっていうのは、普段からふたりとも顔を見合わせてはいるけどルックが口を開くのは滅多にないらしい、ということだから。
 言っちゃえば、僕だってそうなんだけどね。
 もしかすると、ルックも少しシーナのノリに慣れてきたのかな。
 そんなことを言えば、機嫌損ねるのは目に見えてるから言わないけどさ。
 ……僕に対してはそうでもないけど、ルックって周りからすれば取っつきにくいタイプだそうで、実際他の人とあまり喋らない。
 なのに、こんなにあっという間に慣れさせちゃうなんて。
 ほんと、変なヤツ。
 うん、でも……嫌いじゃ、ないかも。
 ルックと目が合った。
 ルックはわずかに肩をすくめる。
 そうだね…いいか、3人でも。


 と、そこにやたらとあっかるい声。
「レーイっv ルックーv」
 …えぇっ!?
 慌てて振り返る、その暇もない。
 振り向いた僕の目に映ったのは、両手を広げて飛び込んでくるシーナの顔。
 突然なもんだから、もちろん僕がバランスを取れるはずはない。
 ぐらりと景色が揺れて、一回瞬きしたあとには、眩しい青が目の前一面に広がっていた。
 そして、背中に軽い痛み。
「………シーナぁ……」
「……やっぱあんた、切り裂く」
「あはははははは」
 つまり、シーナ…おまえ、僕とルックを押し倒したな?
 頭打ったらどうしてくれるんだよ…。
 ったく、困ったヤツ。
「悪ィ悪ィ。なんか衝動で」
「衝動で殺されたらたまんないんだよね」
「大丈夫! オレも命がけだったからさー」
 まぁね、下手したら紋章がめいっぱい発動してたところだったよ。
 …でも、そんなコトしないよ、今日は。
 だってさ、僕のワガママに付き合ってくれただろ?
 こんなふうにふたり、僕のそばにいてくれただろ?
 それがすごく嬉しいから。


「……広いね、空」
 ひとりごとのようにルックが言った。
「なんかこんなふうに仰向けに空見てるとさ、空を一人占めしてる気分にならない?」
 楽しげにシーナが言った。
「一人占め? 3人で見てるんだろ?」
 僕も、笑って答えた。






 ひとりで空を見上げると、自分がとても小さいもののように思える。
 小さくて、何もできない存在なのだと。
 その空が広ければ広いだけ、淋しくなる。
 ……でも。
 こうして隣に誰かが…誰でもいいわけじゃない、誰かがいてくれたら。
 心ごと、広くなれるような気がする。
 高く高く、果てなく続く青が勇気をくれる。
 なんでもできるような気持ちさえも……。
 こんな不思議な思い。
 とても『幸せ』な、そんな思い。
 あたたかな、気持ち。
 この世界に生きる人すべてが、こんな『幸せ』な気持ちになれればいいのに。
 ────あぁ。
 そうか。
 そのために……。
 そのために僕は、戦っているんだ。
 そうして、理由はもうひとつ……。






「……レイ」
「…んー…ルック?」
「そろそろ起きないとまずいんじゃないの?」
「あ、僕寝てた? ……って、夕方────!? や、やばっ、軍議の時間過ぎて……っ」
「ふぁ────……。なになに? どーしたの?」
「シーナっ。おまえいつの間に僕の上に乗ってんだよっ。ってそれどころじゃないんだ、どけって!!」
「もーちょっといいじゃーん…」
「寝惚けてんなバカシーナっ! 重いんだってば! 軍議なんだよ!」
「そんなのサボっちゃえば?」
「シーナならそれでもいいだろーけどね!」
「…それよりレイ。付き人、血相変えて騒いでんじゃない?」
「あ──────っ!! グレミオ────────っっっっっ!!!」





Continue...




<After Words>
スミマセン!! ずいぶんと久し振りのトライアングルです!
ホントはアクションやろうかと思ったんですけど、
久し振りすぎたのでまずはここから。
…さぁて、ぼっちゃんとルックがちょっと角が取れてきたかな。
でもたぶん、気を許すまではまだまだかかるんだと思いますよ。
ふたりとも性格が(笑)。
それにしたって、他のサイトさんとは大違いだな、うちのシーナ……。
っつーか全国の皆さんすみません、
うちのシーナこんなアホで……。
よーし、次回こそはアクション(偽)を!
そんでお約束の展開をするぞー!!



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