トライアングル5
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 目の前が開けて、僕たちは愕然とした。
 切り立った、崖。
 そこに沿って道が続く。
 見下ろすと、下の方には川が流れてるのが見える。
「ある意味、ね」
 呟くように僕が言うと、ビクトールは笑った。
「ある意味、だろ? 道には草がないから歩きやすいんだが、なんせ道幅がそれほど広くないからな。下手すると危ないぜ」
 たしかに。
「マジでこんなところ歩くのかよー」
 シーナが愚痴った。
 僕もちょっといやだな。
 ここから先は左が上へ続く崖で、右が下へと落ち込む崖で……。
 ここで敵に遭遇したりしたら。
「レイ」
 …ルック。
「あんまり悪いことは考えない方がいいよ。悪いことを考えてると、それを引き寄せてしまうことがあるから」
「そうだね。…でも……」
「わかってるよ。僕が司令官だったとしても、ここに配備する」
「やっぱりそうかな」
「じゃない? ……嫌な、風の気配がする」
 本当に不思議なんだけどさ。
 悪い予感って、悪ければ悪いほどやけに良く当たるんだよね。


「レイっ! 後ろ! 気をつけろ!」
「あぁ!」
 背後に迫っていた剣を、僕は棍で叩き落とす。
 そしてそのまま突き倒し、反動を利用して前にいた奴を叩き据えた。
 次は、左にいた奴。
 おそらく、麓で僕らの目撃証言を得て追ってきたか、ここを通るだろうという警戒線を張ってあったか。
 敵は全部で20人くらい。
 帝国兵だ。
 遠くから怒号が聞こえてきたかと思うと、あっという間に後ろから僕たちに襲いかかってきた。
 馬で追ってきたみたいなんだけど、あんな足もとが悪い中、よく馬なんかで追ってこれるよな…しかも森だったし。
 ご苦労なこった。
 まぁ、大して強い奴らじゃなかったからいいんだけど。
 でもそうはいっても、向こうも必死だ。
「ちっ……しつけぇな!」
 シーナが怒鳴る。
 必死だから死にものぐるいで向かってくるし…しかも魔法兵がやっかいだ。
 ルックもいい加減頭に来たらしい、
「……〈切り裂き〉」
 流れるように手を振って、ルックが紋章を使う。
 隊の後ろの方にいた魔法兵たちがなぎ倒されていく。
 そこに隙を見たビクトールがつっこんでいく。
 グレミオが斧の柄で歩兵を払う。
 僕の目の端で、ビクトールが指揮官を斬って捨てた。
 向こうの隊は、完全に崩れた。
 指揮官を失って、ほとんどの残った兵が背を向け、慌てて逃げていく。
 よし、もう一息。
 ―――思った、その瞬間。
 ひゅんっ……
 空気を裂く音。
 腕に、チリ、とわずかな痛み。
「ぼっちゃん!」
 グレミオの声。
「大丈夫! かすっただけ!」
 顔を、矢が飛んできた方に向ける。
 そこには、目を血走らせた弓兵がひとり。
 僕と目が合うとばっと逃げ出した。
 グレミオが弾かれたように駆けて、逃げた弓兵を追う。
 ふぅ、やれやれ。
 ……って…え?


 がら、と足もとで音がした。
 とたんに体がバランスを失う。
 しまった、今ので崖の方に踏み込みすぎたか!?
 そう理解できたところで、遅い。
 体勢を立て直そうにも、地面がない。
 僕の体は引っ張られるように谷底に向かっていく。
 こ、これって落ちて…るんだよな?
 やばいっ。
「レイっ!?」
「レイ…っ、おいルック!!」
 ルックの、続いてシーナの叫び声。
 僕は人間が危機に陥ったとき、景色がスローモーションに見えるって本当なんだな…なんて、どこかでそんなどうでもいいことを思っていた。
 それって、かえって混乱してるってこと?
 両側の崖と、その隙間に青空が見える。
 すぐ、そこにルックの姿が見えて…すぐにシーナの姿も見えた。
 ……え?
 僕はふたりの姿に我に返りかけたけど、すぐに視界が真っ暗になった。
 水面に叩きつけられたんだな、と思った。





「ぼ、ぼっちゃあん!!」
「って馬鹿、グレミオ、どうする気だ!」
「とう、って、ぼっちゃんを助けるんです! 決まってるじゃないですか!」
「それでおまえまで飛び込んだら二次災害だろーが! ちったぁ落ち着け、いいか。レイたちは大丈夫だ、ルックがいる。……『瞬きの手鏡』は?」
「あ、私が……」
「なら話は早い。とっとと城に戻って、ビッキーに川下へ飛ばしてもらうんだ。ちんたら川下まで足で降りてったんじゃ探せるモンも探せないからな。行くぞ!」
「は、はいっ!」





Continued...




<After Words>
「君ノトナリ。」から続いて参りました、トライアングル5。
アクション!! …にしたかったんですけど。
立派に失敗してますね……。いつものことと言えばそうなんですけど。
しかもあれですね、同人誌のお約束(笑)。
この際だから開き直って、「お約束をやるぞ〜っ!」ってコトを宣言しておきます。
ある意味なんだかやってられませんね。



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