トライアングル6
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 僕とルックとで、交代で仮眠をとっていると、外の景色が白々と明るくなってきた。
 僕はあたりを確認するために外に出る。
 その穴は横穴って感じの穴で、ちょっと突き出したその岩の周りは、まるきりただの森だ。
 一見しただけじゃここがどこだかわからない。
 しばらくすると、本当に眠ったのかどうかわからないルックが早々に僕の近くまで来た。
「朝になったみたいだね。さっさと戻らなきゃだろ。誰かさんのためにね」
「…もちろんっ。ルックも誰かさんが心配だろうし」
 めずらしいルックの軽い言い回しに、僕も軽く混ぜ返す。
 ルックはもういつもみたいに肩をすくめて流すけど。
 …さて、冗談はこれくらいにいたしまして。
「でさ、ルック。魔力の方はどう?」
「まだ無理だね。放出し続けたから消耗が激しいみたい」
「どれくらい流されたんだかわかる?」
「僕も詳しくはわからない。ただ、相当な距離を流されたのはたしかだろうね」
「そっか。じゃあ戻るよりも近くの町を探した方がいいか」
「だと思うよ。ちゃんと休めば魔力も戻るだろうし」
 理由はどうあれ、早く城に戻った方がいいのには変わりがないからね。
 そんなふうにルックと進む方向を検討していると、岩穴からごそごそと動く気配。


「あー…オハヨ」
 ひょこりと大あくびをしながら顔を覗かせたのはもちろんシーナだ。
 僕とルックが同時に、
「ん、おはよ」
「…おはよう」
 って言う。
 …もちろん普段のルックはまかり間違ってもシーナに挨拶なんてしない。
 蛇足だけどね。
 シーナは気付いてんのかいないのか。
 当のシーナは、にこにこと嬉しそうな笑顔。
「あ、レイ。目、覚めたんだ。よかったー」
 よかった…って、シーナ。
 おまえなぁ…。
「レイもルックも平気? そっかそっか、よかったよかったv」
 へらへらと脳天気に笑ってるけど。
 おまえが一番危なかったんだからな。
 なんか…なんか頭に来るっ。
「…シーナっ!!」
「んー?」
「なんでそんなに無鉄砲なことするんだよ! 一歩間違ったら死んでたかもしれないんだぞ!」
 あぁ、でも……。
 言いながら僕は、次の言葉に正直迷ってた。
 僕は「こんなバカなことするな」って言いたかった。
 でも、シーナにそんな行動を起こさせるような失敗をやらかしたのは僕なんだ。
 そんな僕が、そんなことを言えるはずもなくて。
 だけどやっぱり、……そんなのは嫌なんだ。
 だから。
「……ありがとう。…でも、無茶なんか、もうするな……」
 そう言うのが精一杯だった。
 僕の隣にいたルックは何も言わない。
 けど、シーナの顔をじっと見て頷いた。
 シーナは少し驚いたような顔をしたけど、すぐににっと笑った。
「わかったよ。約束するv」





 僕たちのいた穴のあった岩は、ずいぶんと背が高くて、小さな台みたいな突起があった。
 できるだけ高くから周りを見た方がいいしね。
 実際登ったのはシーナだけど。
「どう? シーナ。何か見える?」
「んー…。はっきり町だ! ってわかるようなものは見えないけど。森のはじっこみたいな切れ目は見えるなぁ」
「どっち?」
「太陽に向かって左斜め45度くらい」
「…つまりなんだって?」
「いわゆる北東」
 最初からそう言えって。
 シーナはすたん、と軽々降りてくる。
 するとルックが少し考えるような仕草をした。
「ということは…そんなに遠くに流されたわけじゃないな」
「見当、つく?」
「大体ね。けど『驚くほど遠くない』っていうことだから。そんなに近いわけじゃないよ」
 そう言うけど。
 誰かが場所を少しでもわかってると気が楽になるよね。
 僕もなんとなく場所を理解できた。
 うまくすると、近くに町があるかも。


「へーえ、すごいなぁ、ルック。それだけでわかるんだ?」
 脳天気なシーナの声。
 ルックはそれをちらりと見て息をついた。
「…川の流れの速さ。方向。岸に着いた時間…まぁこれはあんたの証言を信じるならだけどね。そういったものと頭の中の地図を重ねれば大体の位置はわかるんだよ」
「そっかぁ」
 ルックはずいぶんと呆れたように言った。
 …でもちゃんと説明してるよ。


 僕たちは、身につけていた荷物をまとめて出発することにした。
 ほとんどの荷物が流されてなかったのは運がよかったよね。
 特によく武器が流されなかったなぁ…と。
「んじゃ、行こうか。早く帰んなきゃね」
 僕は荷物を背負いながら言った。
 するとシーナ。
「まぁオレはね。このまま3人でいてもいいんだけどーv」
 ルックと僕は、同時にシーナに白い目を送る。
「「……バカ…?」」(ステレオ)





Continued...




<After Words>
すいません、さらに続いちゃったりして…あははは。
気ぃ失ったぼっちゃんとルックをシーナに助けさせたかったのですv
この辺とかがお約束ですね。
そうしてまだこの遭難編(←!?)は終わらないしね。
その上、ぼっちゃんがまだ気を失ってるときの話…っていうのも
ちょっと書きたいなぁ、とか思っちゃったりして…。
なんて奴だ。



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