月檸檬
− 3 −

 ちょっとだけ夜更かし、のつもりが、結局寝不足状態になってしまった次の日の朝。
 斜めに射し込む太陽の光が、目にずいぶんとまぶしい。
 だって、寝たのは東の空がしらじらと明るくなってきちゃった頃で。
 ……それなのにすっきり起きられるわけなんかないじゃんか。
 どうやら中途半端な睡眠時間だったみたい。
 しまったなあ、と思いながら身支度を整える。
 その手がなんとなくのんびりしてるのも、寝不足のせいだ、きっと。
 シーナやルックはどうしたかな。
 ルックなんかはそんなに寝なくても大丈夫みたいで、前に一緒に夜更かししたときには僕だけが寝ぼけてて、ルックはしゃんとしてたけど。
 まあね、ルックが寝ぼけて人前に立つなんて、そんな無様な真似したりはしないだろうけど。
 ほんとにあいつ、プライド高いもん。
 人に対してのガードも固いっていうかなんというか、ルックの弱点を知ってる人っているんだろうか。
 レックナート様ぐらいになれば知ってたりするのかな。
 それとも逆に弱点なんか見せないんだろうか。
 とりあえず、今朝はシーナはダメだろうな。
 シーナのやつは一度寝たら目を覚まさないもんなあ。
 それはそれで大物だけどさ。
 さてと。
 今日も頑張りますか。
 僕は背筋を伸ばして、部屋のドアを開けた。


 ドアの前に人の気配があったから、僕はすっかりグレミオだろうと思ってた。
 そこに立っているのはいつもグレミオだし、他に用事がある人なら、部屋の前まできたらノックぐらいするだろうし。
 僕は一晩中忙しかったグレミオが帰ってきたのかな、と思ったんだ。
 だから、
「よっ。オハヨ」
 なんて言いながら能天気に手を振るシーナの姿をそこに見つけて、僕は一気に目を覚ました。
 うっわ、びっくり。
 シーナ…なんでこんな早く!
「一体何が起こっちゃったんだよ、シーナがこんな早くから起きてるなんてさ!」
 シーナはあはは、と気楽に笑ってひとこと。
「ああ、寝なかった」
 寝なかった…って、シーナ。
 寝ないのは体によくないぞ?
「そりゃ、オレっていったん寝ちゃうとよっぽどのことがないと起きないけど。でも1日2日寝ないくらい、全然大丈夫だぜv」
 そうは言うけどね。
 と、そこに、ばたばたとグレミオが駆けて来た。
「あ、ぼっちゃん! おはようございます!」
「グレミオ。おはよう」
「……オレは?」
「おや、シーナくん。いたんですか。おはようございます」
 ぺこり、とグレミオは頭を下げる。
 シーナはぶつぶつとついでかよ、と文句をつける。
 あはは、グレミオってこういうやつだから…ごめんね。
「あっ、そうだ、ぼっちゃん。マッシュ殿が呼んでいましたよ。今度の作戦のことで…」
「うん、わかった。行くよ」
 歩き出す僕。
 すると、うしろからシーナがついてくる。
 僕はぴたりと足を止めた。
「……もう1回聞いていい?」
「どうしたの、だろ」
「そりゃもちろん。…だって軍議だよ? シーナの嫌いな」
 だからいっつもいっつも、たとえレパントさんに呼びつけられてもサボるんだろ?
 そんなわけで聞かせてもらったんだけど。
 でも、シーナはあっけらかんと言い放つ。
「決めた。だって、一緒にいてくれるんだろ?」
 ……まったく。
 よくそんな殺し文句が出るもんだね。
「はいはい。邪魔すんなよ」
「しないってば」
「…それより今日は、あっちの方が心配か。居眠り」
「だいじょーぶだってv」
「どうかなあ…」
 笑いあいながら、僕とシーナは廊下を歩いていく。
 すると廊下の先に立っているのはルック。
 それに気付いて、僕とシーナは顔を見合わせる。
 やっぱり集まっちゃうんだね。
 そんなことがなんとなく楽しくて、……嬉しい。
 僕たちは笑って手を振って、ルックも軽く手をあげて答えてくれる。
 グレミオはしばらくあっけに取られていたみたいだけれど、すぐに僕のほうへ駆けだしてきた。
 陽射しがどこまでも暖かかった。





 「一緒にいよう」なんて。
 そんな言葉、永遠じゃないけど。
 そんなこと、わかってるけど。
 でも、大丈夫。
 僕は大丈夫。
 あの檸檬の形の月が、いつまでも瞼に残ってるから。
 だから大丈夫だよ。
 すべてが満ちて、やがて欠けたとしても。
 僕の目には、残ってるから。





End




<After Words>
大規模メンテナンス中に連載していた作品です。
連載っていっても別にちゃんとした奴ではないんですけどね。
ただ、進行状況の報告の場といいますか。
最初から何かを考えていたわけではなく、わりといきあたりばったりです。
可愛い話、を目指していたはずなんですが、途中でタイトルを『月檸檬』に決めた、
あのあたりからどうやら調子が狂ってきてしまったらしい……。
最初から「タイトルは月檸檬でいいかなあ」と思っていたんですよ。
月檸檬、というのはもともとこの言葉を元に詩を書こうと思っていたんですけどね。
レモンの花の花言葉を調べてみたら、「熱意」「心からの思慕」だそうで…。
もちろん、それと知ってタイトルをこれにしたわけですが。
…つまり、軽くラブラブしちゃった原因はすでにここにあった、というわけです。
トライアングルでラブラブって、ありですかねぇ?



戻るおはなしのページに戻る