November 5th, 2002
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種を蒔きましょう。
一緒に。
土を掘って、小さな穴に埋めて。
どんな芽が出て、
どんな花が咲いて、
どんな実がなるのでしょう。
暗い土の中から、
この世界を、どんな思いで見るのでしょう。
この世界は、
光で満ち溢れているでしょうか?
かたかた鳴る窓枠に寄りかかって、外の景色をぼんやり眺める。
触れたガラスはひんやりと冷たくて、表の寒さが伝わってくる。
見慣れない景色は枯葉と同じような褪せた黄土色。
それがくすんだ色に見えるのは、窓が少し曇っているせいだろうか。
はぁっと息を吹きかけて、袖でこすってみる。
やっとわずかにクリアに見えるけれど、やはりそれはガラス越しの景色だ。
その隔たれた向こう側で、数人の子供たちが輪になって遊んでいた。
手をつないで回っては、時々逆に回る。
その輪の真ん中で、ひとりの子供が目を閉じてしゃがみこんでいる。
回る子供たちは楽しげに、何か歌を歌っているようだ。
かすかに弾んだメロディが聞こえる。
見ていると、輪になった子供たちがぱっと輪を崩して広がった。
そうしてすぐに中心にいた子供が立ち上がり、きょろきょろと回りの子供たちを見回し、そばにいた子供に触る。
子供たちは高らかな歓声をあげ、今度は触れられた子供が中心になってしゃがみこみ、残りの子供たちは集まって何かを相談し、また輪を作る。
それの繰り返しは、一見単調だ。
しかしそれが子供たちには楽しいだろう、飽きもせず何度も輪を作っている。
ぼんやりした思考のまま、そういえば、と振り返る。
あのくらいの小さい頃、年の近い子供たちとはあまり遊ばなかったな、と。
近所にそのくらいの年の子がいなかったせいもある。
勉強だ鍛錬だと子供ながらに忙しかったせいもある。
それが無駄だとは今でも思っていないから、別に構わないけれど。
それでもああやって遊ぶのも楽しかっただろうにな、と思う。
思い立って、窓を開けてみた。
とたんに冷たい風が流れ込み、思わず身震いする。
けれど嫌な風ではなく、肺が洗われるような清々しさのある風だった。
子供たちの歌が、聞こえる。
「種を蒔きましょ、おひさまの種、どこにうめた、どこにうめた」
「おひさま、おひさま、好きなものなあに」
「しってる、しってる、緑の帽子」
どうやら『おひさま』役の子供を真ん中の子供が当てるゲームのようだ。
着ているものや好きなものでヒントを出しているらしい。
初めて聞くこっちにはわからないが、それだけで子供たちはわかるのだろう。
種を蒔きましょ おひさまの種
お庭のすみに はたけのかどに
種を蒔きましょ おひさまの種
おひさまの種 しあわせの種
さぁ どこだ?
何をするでもなくぼーっとそれを見ていると、廊下のドアが開いて、誰かが入ってくる気配。
「……うっわ。寒っ。…って、窓開けてんの!?」
驚き呆れた声が背後からかかる。
シーナは腕をついたまま顔だけで振り返った。
「あー、おかえり〜」
「ただいま。…いやそうじゃなく。開けてて寒くないわけ?」
「寒いけど、実りのある寒さっつーか」
「なんなんだよそれ」
理解できません、と肩をすくめてレイ・マクドールは羽織っていたマントを脱ぐ。
もちろん言った方のシーナも特に意味があって言ったわけではないのだが。
一方、同じようにマントを脱ぎながら不機嫌そうなのはルックだ。
「………あんたね。僕たちに情報収集させといて、そこでひとりでぼけーっとしてたわけ? 信じられないね」
「えええ? だってさ、誰が連絡係で残って、誰と誰が組になって出るかって…ちゃんとくじ引きで決めたじゃん」
「だとしてもこんなあちこち動き回るような体力仕事、僕の仕事じゃないだろ? どっちかって言うとあんたのほうが適任なんじゃない?」
まったく、とマントをベッドの上に放り投げる。
レイはそれを困ったように笑って見ていたが、ふと気がついたように、
「あれ、そういえばビクトールとフリックはまだ?」
と聞いてきた。
「あー、あのコンビ? 1回戻ってきたけど。まだちょっと気になるってんでまた出てったぜ?」
「ふぅん」
シーナは答えながら、どうやらレイがルックの機嫌の悪さを回避しようとしてくれているんだと理解する。
たしかに、一度機嫌を損ねてしまうとそれからが大変だ。
けどそんなふうにすぐに拗ねるところも可愛いんだよなぁ、というのはひとりごと。
下手に聞こえて騒ぎになったら収拾がつかない。
とはいえ、
「…シーナ? 何か言った?」
「えっ!? やだなあ、何も言ってないってばっ」
なぜかこっちの考えは時々読まれてしまっているらしいが。