おひさまのたね
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 この町に来たのは情報収集のためだった。
 最近帝国軍と解放軍の勢力境のあたりで起きているいざこざが気になる、とレイが言い出したのだ。
 少数で聞き込みに行く、というレイに対し、真っ先に同行者として立候補したのがシーナ。
 シーナがほぼ押し切る形で連れて来たルック。
 しかしルックが外出を渋った理由はひとつ、「寒いから」。
 決して行くのが嫌だからでも同行者が気にいらないからでもない。
 ルックも基本的には人当たりが悪いが、レイとシーナ(一応)にはこのごろなんとなく軟化した態度を示すようになっていた。
 レイはレイで、ルックとシーナ(一応)を友達と思っているようだし。
 それがシーナは嬉しくて、積極的にレイとルックに構うのだ。
 なにせ、シーナはふたりを「大好きv」と公言してはばからないのだから。
 レイとルックはそれをはっきりどう思っているかは言わないのだが、無言で攻撃を加えてくることも少なくなったから、きっと悪くは思っていないのだろう。
 あくまで推測に過ぎないが、でもそうだと勝手に思うことにしている。
 だって、
「こんな風通しのよすぎるところにいたら風邪ひくよ?」
「馬鹿は風邪ひかないっていうけどね。度を越したらやっぱりひくんじゃないの」
 そのセリフはどんな角度で見ても気遣ってくれていることがありありとわかる。
 出会った当初は絶対こんな言葉はくれなかったわけだし。
「うん、オレは平気v 風邪ひきにくい体質みたいだし。それより、ふたりは平気なの? レイとルックが寒いって言うなら閉めるけど」
「あー…僕は平気。今外に出てたばっかりだから。かえってちょうどいいけど…ルックは?」
「僕も」
 そっか、とシーナは頷く。
 シーナにとって、レイとルックは最優先事項だ。
 何と比べてもこれはどうしようもない。
 シーナも自覚していたわけではないのだが、いつの間にか自分の中でそういうことになっていた。
 思わずにやけてしまうシーナに、レイは呆れたように声をかける。
「…あのさ、シーナ」
「んー?」
「さっきから窓の外ばっか見てるけど。何を見てるわけ?」
「え? いやさ、別に何ってわけでもないんだけど」
 あれ、とシーナが外を指さす。
 レイとルックは不思議そうに首をかしげて窓のそばに近寄る。
 そして窓の外で遊ぶ子供たちの姿を見つけると、さらに不思議そうな顔をした。
「……えっと。子供が遊んでるね…」
 どう判断したらいいかわからずレイがつぶやく。
 ルックはあからさまに嫌そうな顔をした。
「…もしかして、あんた。女に手を出すだけじゃ飽き足りなくて僕たちに手を出した挙げ句それでも満足出来なくて、とうとうそっちに行っちゃったわけ?」
「なっ。ち、違うって〜! 第一ふたりにはまだ手ェ出してないじゃん!!」
「……まだ? ってことは、そんな不埒な考えがないわけじゃない、と」
「! こっ、言葉のアヤだってば! そ、そうじゃないってば、ほら、子供って無邪気だな、とかああいう遊びって昔時々やったりしたっけな、とか、そういう感傷に浸ってたんだってば!」
 シーナは慌てて言い繕う。
 一応納得したように頷くルックの目は笑っていなかったが。
 レイはそのふたりのやりとりを困ったように笑って見ていたが、シーナの「感傷」という言葉に反応を返した。
「あー、そうだよね。僕も昔はあんな風に遊んでたっけなぁ。何でもない遊びでも、しょっちゅうケガして帰ってグレミオを泣かせてたっけ。……それにしても、シーナが感傷なんて言葉使うとはね」
「似合わない?」
「うん」
「…即答かよ」
「あははは」
 ちぇ、と口をとがらせるシーナに、レイが笑った。
 シーナは拗ねたようにつぶやく。
「だってさー。そんな気分にもなっちゃうじゃん。なにせ秋だから」
「……理由にならないよ。便利な言葉だね」
 呆れたようなルックの言葉。
 それでも、何も言われないよりは全然いい。
 シーナが投げたものが、態度でも言葉でも何でもいい、返ってきてくれるのが嬉しいから。





 種を蒔きましょ おひさまの種
 お庭のすみに はたけのかどに
 種を蒔きましょ おひさまの種
 おひさまの種 しあわせの種
 さぁ どこだ?




 くるくると、足取りも軽く回る子供たち。
 楽しげな声を、3人はぼんやりと聞いていた。
「…おひさまの種、かあ。どんな種なんだろうな。やっぱり熱いのかな」
 ぽつり、とシーナ。
「は? 何言ってんの、あんた。子供の遊びだろ。何を真剣に考えてるんだよ」
 ルックが怪訝そうにそう聞き返す。
 シーナはふたりの顔をちらりと見た。
「うん、そうなんだけどさ。ふたりはどんな種だと思う?」
「どんなって…」
 いきなり問われて、レイとルックは顔をしかめて腕を組む。
「…うーん。しあわせの種、でもあるんでしょ? なら…暖かくて、包み込んでくれるもの…かな」
「そばにあって欲しいもの……。そして、いつもそばにあってくれるもの……」
 言葉を選ぶように、ふたりは小さな声で思いつく言葉を羅列する。
「それがどこにあるか、って」
 レイはそこで言葉を切った。
 そして、視線をルックに向ける。
 視線を受けたルックは驚いたように一瞬シーナを見たが、すぐにぶんぶんと頭を横に振った。
「レ…っ、レイ、何を…! そんなわけないだろっ」
「いや、僕は、別にそうとは言ってないけど? ルックがそう思ってるんじゃないの?」
「そんなはず…っ」
「? どうしたの、ふたりとも」
「「なんでもないっ」」
 息のぴったり合った否定。
 シーナは首をかしげて、もう一度窓の外に目を向けた。
「まあ……オレはたぶんそれをもう見つけたと思うけどね。そばにあるだけで幸せな……おひさまの種」
 子供たちではなく、もっと遠いものを見るようなシーナの瞳。
 心があったかくなる、もの。
 振り返ると、レイとルックがはっとしたように顔をそらせた。
 その頬が少し赤いように見えたのは、空気が冷たいから?
「……な、なんだよそれ…。僕たちには見当もつかないけどねっ」
「ほんっっと、あんたってキザ…っ」
 ほら、こんなに胸の奥があったかい。
 シーナはこみ上げてくる暖かさにつられるように、笑った。
「ねえ、ふたりとも」
「「なんだよ」」
「……大好きっv」
「! ぼ…僕は嫌いっ!!」
「僕だって、あんたなんか大嫌いだよっっ!!!」


「ねえ、せっかくだからオレたちもあれに加わる?」
「えぇ!? やだよ、寒いもん!」
「大丈夫だってばー。寒かったらオレが抱きしめて暖めてあげる〜」
「だったら凍えた方がマシ!!!」
「……バカばっか」
「あれぇ、ルック、オレとレイが仲良ししてるからヤキモチ?」
「…! な、わけないだろ!!」
「平気だって、両腕あるから〜v ほら、飛び込んでおいでよvv」
「い・や・だ! 人の話ちょっとは聞けよっ!!」




 種を蒔きましょう。
 一緒に。
 こんな寒い風の中でも、きっと芽は出てくるから。
 あったかい、
 あったかい、
 おひさまの種。
 君の心の中に、それを見つけたから。
 どんなに世界が暗い闇の中だったとしても、
 君が
 君こそが世界の光だから。





End




<After Words>
30,000ヒットありがとう企画ノベル・幻水版。
最近本編がアレでナニなもんで…何を書いたらいいのやら。
とりあえず何か書こう…ってことで、ハーボット(トップにいる生き物)の
ナル坊が「フーの種」をゲットして、それが芽が出て花が咲いたので、
それが何となく嬉しかったのでこんな話になりました。
てか、うちの3人、飽きないのかな…こんな会話の流れ(笑)。
なんかすごく仲いい風に見えるんですけど、どうですかね。
…で、ラストの言葉は思いっきり真心込めて読んでください。
ぜひ。



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