December 1st, 2001
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※ ギャグです。ギャグですから真に受けないでくださいね(笑)。
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突拍子もないことは、突拍子もないときに起こるから突拍子もない、というわけで。
そんな謎掛けのような哲学のような屁理屈のような、そんな思考が呆然とした頭の中をぐるぐると回る。
いくら冷静に対処しようとしたところで、いったいそれがどれだけの意味を持つのやら。
沈着冷静、才色兼備と謳われていたはずだが、そんなものはいざというときには吹っ飛ぶもんだな、などと変に納得してしまう。
「ええと。……これって…?」
力を振り絞って出した声は情けなくもわずかにかすれている。
隣に視線をやると、相変わらずの無表情。
けれど、
「…さぁ」
そう言った声がほんの少しばかり上擦っていたところを見ると、さすがに驚いていたのだろう。
やっぱりこいつも人の子だったか。
いや、違う、それどころではない。
「んー…と。こ、こういう場合ってさ。どういう反応するのが正しいと思う?」
「さあね。びっくりして大騒ぎでもしてみる?」
「なんかこれ、騒ぎが大きくなるのもいやだ……」
「じゃあ驚いてもしょうがないだろ」
「そうなんだけどさぁ……」
理性が判断してもどうしても一歩遅れがちになるのが感情というものだ。
しかもその理性ですら麻痺しそうなのを、どうやって対処したらいいというのか。
「そんなに気にすることないんじゃない? ほら、よくあるだろ、戦闘で小さくされること。いったいどんな科学的現象なんだって思うけど」
「科学的云々って言っちゃったら話になんないじゃないか。……違う、話がそれた。あれは大きさが変わるんだろ? これって大きさが変わってるってわけじゃないよ?」
「魔法が平気で存在する世界で不条理を突き詰めても仕方ないんじゃない」
「そ、そうなんだけどさ〜…」
思わず唸って、レイは頭を抱え込んだ。
ルックは溜め息をつく。
2人の目の前では、ひとりの子供が積み木で遊んでいる。
育ちがいいのか上品な顔つきで、けれど目を輝かせて城(らしきもの)を作っているあたりが子供らしい。
時折作ったばかりの城を崩しては喜んでいる、腕白そうな子供だ。
光にきらきらと透き通るような美しい金髪をさっぱりと短くしているのがよけいにそんな感じを与える。
気が立った者でもつい和んでしまうような光景だ。
……が。
どうしても和めないのが、この2人。
和みようがないのである。
「っは〜〜〜〜」
レイの長い溜め息。
「…どうすんだよ、コレ」
レイの反対側に座って頬杖をついていたルックがぼそりとつぶやく。
「いや、だから。どうしろっていわれても。ええと…うーん」
「しっかりしてよ、リーダー」
「ええええ、こんなときだけリーダー扱い…? ちょっとはルックも考えてよ」
「それじゃ僕の目に届かないところに飛ばす」
「それはまずいって…」
「僕に任せたら遠慮なくそうさせてもらうから」
「うわー…とんでもない防御策に出るよね……」
と、目の前で遊んでいた子供がぱたぱたと駆けてくる。
そっぽを向いたのがルック、逃げ腰になったのがレイ。
「ねぇねぇ、一緒にあそぼーよぉ」
子供は甲高い声で2人に詰め寄る。
どうやらひとりで遊んでいるのに飽きたようだ。
完全に我関せずモードに突入してしまったルックを恨めしげに見ると、仕方なくレイは引きつった笑いを浮かべる。
「どうしたの? 積み木は終わり?」
「だって、つまんないんだもん。ねぇ、おんもいこーよ!」
どう見ても4、5歳の子供だ。
それ以外には見えない。
なのに。
「ええっと…ね。ちょっとお外には出られないんだ」
「え〜〜〜」
「っああ、だから、一緒に遊んであげるから、ね!?」
「いっしょに?」
「うん、だからいい子でいてね、……シーナ」
「はーい!!」
名前を呼びながら、めちゃくちゃへこんだレイであった。
事の起こりは数時間前。
まるまる一晩かかった会議がようやく終わり、レイはルックと立ち話をしていた。
そこに例の如く近づいてきたのがシーナだ。
2人が徹夜なのに対し、会議には端から出る気がなかったシーナは朝から元気いっぱいで、それがなんとなくカンに障ったので、気が付いたらWエルボーをかましていた。
それでも「いったいなぁ〜」などと言ってシーナは笑っていた。
こいつはコレだけされてもまだへらへらしてんのか!! と思って2人がばっと振り向いた、と。
するとそこにはすでに子供。
目をぱちくりとさせながらきょとんと2人を見上げているではないか。
頭の中身が一瞬にして真っ白になってしまった。
それでつい、シーナ(らしきもの)を連れてレイの自室へ慌てて戻ってきたのだ。
もちろん、「僕もルックも休むから、しばらく誰も来ないで!」とグレミオに告げて。
床にぺたりと座り込んで、シーナ(らしきもの)から赤い積み木を受け取るレイを、ルックはただ黙って見ている。
レイはというと疲労感を背中いっぱいに漂わせてシーナの相手をしている。
「つぎはね、これをね、えっとね」
シーナは楽しそうだ。
舌っ足らずのシーナ、だなんてぞっとして仕方がないのだが、これが表に出てしまったら大変になること必至である。
なのでひたすら耐えるレイだ。
なんだよこれは、と思うものの、一応(ここがポイント)小さな子供相手であるのでなんとか我慢もきくらしい。
「……なんでこんなことが起きたんだろうね」
溜め息混じりにルックがつぶやく。
「あ、ほら、そんなに高くしたら危ないよ……って、え? なに? ルック何か言った?」
「………保父さんがお似合いだよ」
「だってルックが手伝ってくれないんじゃないか…」
そうは言いながら、レイは結構よく面倒をみている。
このあたりはさすがあのお節介なグレミオに育てられただけのことはある。
たぶんレイもこんなふうにびったりそばについて世話をされていたのだろう。
幼いレイのわがままをにこにこと嬉しそうに聞いているグレミオの顔が容易に想像できて、ルックは肩を落とした。