みにまむ
=ちっちゃいシーナ編=
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「れーいっ。おひざだっこしてー」
「はぁ!?」
突然シーナが言い出す。
そして、そのままちょこんとレイの膝に座り込んだ。
レイの体が硬直するのを見て、つい吹き出しそうになったのをルックはなんとかこらえることに成功した。
あのシーナが。
レイの膝の上にいるだって?
レイも小さな子供をはねのけることができないらしく、座られるがままになっているのもおかしい光景だ。
「ちょ…ルック……。おねがい助けて……」
滅多に聞けない、レイの弱音。
これはいいものを聞いたものだとルックも内心ほくそ笑みながら、表面では仕方なさそうに立ち上がる。
「…ったく。なんで僕がこんなことしなきゃいけないのさ」
「そう言わないでよ…もしかしたらあのエルボーでこうなっちゃったのかもしれないじゃないか…共同責任ってことでさ」
「どこの世界にエルボー喰らって子供になる奴がいるんだよ」
「ごもっとも…」
2人をとことんブルーにしている張本人のシーナは、まったくそれに気がつかない様子。
それも「子供」だから仕方ないのか…。
2人に囲まれてかまわれているのが嬉しいらしく、はしゃいだ口調で、
「はい、これ、あげる!」
と三角の積み木を差し出してくる。
「……ありがとう」
乾いた笑いのレイ。
「…………」
「おれいは〜?」
「……ありがとう」
やはり不機嫌そうなルック。
こうなったら何か弱みでも握ってやらなきゃ気が済まない、とどちらともなく思った。
「ねぇ。それにしても、なんでこいつを部屋に連れてきたりしたのさ」
ルックにしてはめずらしく積み木を重ねるのを手伝ってやりながら。
それをちらりと見たレイは、
「だって。大騒ぎになるだろ?」
「そりゃ騒ぎにはなるだろうけどね」
シーナに次の積み木を渡して、
「でも本当に僕たちの責任なわけ?」
そうつなげる。
「うー…それを言われると痛いんだけどな」
「そんな証拠はどこにもないんだよ? これが魔法だとしても…魔法の専門家のところに連れて行くとかさ」
「でもルックがわかんないなら誰に聞いたってダメじゃん」
「……あぁ。まあ、ね」
しかしこれでは堂々めぐりである。
なんとかならないかと考えてはいるのだが、どこをどうやったらこれだけ詰め込めるのか、というレベルのルックの頭脳を持ってしてもわからないのだからどうしようもない。
それに、とレイは思う。
(…それに、もしこのまんまだったらどうするんだよ〜…。レパントさんに「これ、お宅の息子さんですのでよろしく」って言って渡すのもアレだしなぁ。……もしかしたら、このまま僕たちが育てることになっちゃうわけ!? うわああああああ、いやだ──────っ!!!)
混乱している時は、考えもかっとんでしまうものである。
思わず仕事からお土産を買って帰ってくるところまで想像して、血の気が引いた。
(なんで僕がこんな奴の世話をっっっっ!!!)
既にドツボである。
と。
転がり落ちた積み木を追って立ち上がっていたシーナが、ばたばたと駆け寄る。
ルックの方に。
そして、その膝にちょんと座る。
びしり、と音をさせるくらいの反応でルックが時を止める。
なんだか油の切れたロボットのよう。
レイは素直に吹き出した。
「……笑うな…」
ルックの文句も錆びついたカラクリのような声で、ますますレイは笑い転げる。
「あは、ははははっ。あはははははっ。…ご、ごめん!! だって…っ」
「うるさいよ……」
ルックの膝の上で、シーナはきょとんとしている。
そうしてすぐに話題に置いていかれかけていることに気がついたのか、
「なになになに〜!? おれも〜。おれもまぜて〜」
とルックにすがりつくものだから、ますますルックが凍りつく。
それでさらにレイが爆笑する。
爆笑、といってもやけっぱちで。
すると、シーナは思いついたように。
「ねぇ……」
ルックの顔を覗き込む。
「…なんだよ」
「るっくっておにいちゃん? それとも、おねえちゃん?」
ぴた。
ルックのみならず、レイの動きも止まった。
その手の間違いをされるのを極端に嫌うルックだ。
(そりゃそうだろうなぁ)
と思うけれど言えない、変なところで小心者のレイ。
その小心者は、ちらりとルックの顔を窺い見た。
ルックは無表情。
ただ目だけが暗黒の光を放つ。
「……レイ……」
「なっ…なんでございましょう……」
「こいつ…殺っちゃっていい……?」
「あああああっっっ、ダメダメダメっ!!! 落ち付けってルック!!!」
「これが落ち着いていられる…?」
「ダメだってば、ギャグで死人は出しちゃまずいよ〜〜〜!!!」
キレるルック、宥めようとするレイ、きゃたきゃたと笑うシーナ。
それは一種異様な光景であった。
夕闇が降りた部屋。
床には崩れ落ちたように座り込むレイとルックがいる。
ベッドでくうくうと小さな寝息を立てるのはミニシーナ。
すっかり遊び疲れて眠ってしまったらしい。
寝付くまでそばにいてやったレイは疲労困憊、という感じで、背中に影をしょっている。
「……疲れたぁ……」
そう言ったが、声を出すのもやっとという感じ。
膝を抱え込んでいたルックも顔を上げて、
「なんか…戦争よりキツイ気がするのって…僕だけ…?」
「うぅ…そうかも…」
もっとも、これからのことを考えると、さらに疲れるのであるが。
本当に、もしもこのままだったら……?
逃げ出したくなりそうだ。
しかも普段は遠慮会釈なくシーナに攻撃を加えている2人であるが、やはり子供相手に酷いことをするわけにはいかない。
怒鳴り散らすことも蹴り飛ばすことも魔法を放つこともできなくて、ストレスばかりが蓄積されていく気がする。
たぶんこの調子で行けばいくら名だたる魔法の使い手であるルックでも、紋章の暴発は免れない。
どころかソウルイーターが暴発したら、まさに世界の危機である。
シャレにもギャグにもならなくなってしまう。
「な、ルック…とりあえず…やっぱり僕たちだけでコレの面倒見るのは無理じゃない…?」
「僕は最初からそう言ったろ…」
「…だって…それでなくとも解放軍てキャラが立ってるのに、こんな事件まで起こったってバレたらまさにイロモノじゃんか…」
「そんな心配してたわけ? …確かにそんな軍だったら僕は帰る」
「ほら、絶対ルックそう言うと思ったし」
一見短い会話だが、途中で間が入っていたりするのでここまで約30分を要している。
2人の疲労はピークに達していた。
そこでふと…ルックが視線を巡らせた。
その行動はなんとなくだったのだが、おかげでルックは目を疑うような光景を目にしてしまった。
「……ねぇ。レイ、あれ……」
「へぇ? あれ…って?」
ルックが弱々しくあげた手が指し示す方向に、レイはぐるりと首をまわす。
すると…。
ベッドの上。
すやすやと眠る姿。
半分足がはみ出しているではないか。
ほんの数分前までは、ベッドの真ん中で寝ていたものが。
その姿は、先程から約10年ばかり進んだ姿で。
「……レイ」
「わかってる……皆まで言わなくても…」
数時間、精一杯の力で押さえ込んできたものが、ぷつっという音と共に堰を切った。
────ちゅど〜〜〜〜〜〜〜んっっ
Continued...?
<After Words> |
あ、やっちまった(笑)。 ってわけで、番外編トライアングル第1弾、みにまむをお届けします。 お約束を自分でやるとなぜか嬉しくなりますな。なんででしょう。 え? 意味ですか? ないです(笑)。 しかもどうしてシーナがちっちゃくなったのかとか、それもなし(笑)。 夢オチでもなけりゃ神秘オチでもないってところがギャグ。 シーナのこと「嫌い」っていってるのに、2人とも災難だね……(爆笑)。 実はコレ、自分にしては早く書き上がりました。やればできるの? あ、でも内容が……。(まあそれもいつものこと…って開き直るな〜)。 |