〜みにまむ〜

= ちっちゃいルック編 =

December 17th, 2001

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※ ギャグなんですよ。ギャグなんですって。



− 1 −

 人間には、第六感というものがある。
 動物がよく遠くに捨てられても戻ってくる、という話を聞くことがあるが、どうやらそれと同じたぐいの本能による感覚らしい。
 特にその中でも、予感というものはよくある。
 予知、というほど特殊なものではない。
 別に未来が垣間見えたり、人の行く末を感じたりすることはないわけで。
 その予感というものは誰にでも備わっていて、時々発動しては騒動を引き起こしたりする。
 いわゆる、虫の知らせというものだ。
 ……そこまではいい。
 予感だろうが虫の知らせだろうが、「あぁそうか」で納得してしまえばそれでいい。
 ところが。
 本能とやらのいたずらか、その予感は得てしてよくないことが多い。
 しかもよくない予感に限って、見事な確率で当たってしまうのだから……。





 ぞくり、と背中を何かが走った。
 何か冷たいようなざらついているようないやな感じ、これはまぎれもなく悪寒だ。
 そばでお茶を入れていたグレミオがふと顔を上げて、
「どうかしましたか、ぼっちゃん?」
 不思議そうにそう聞いてきた。
「…ん…なんでもない。ちょっとものすごい悪寒を感じたもんでね…」
「だっっ、大丈夫ですか!!?? も、もしかして風邪でもひいちゃったんじゃ…っ!!!」
「ああああ、違う違う。ほんとだってば。なんかいやな予感がするって…それだけだよ」
 レイは慌てて否定する。
 グレミオが本気で心配をしているとわかっているからなおさらだ。
 そうして何気ないふりをして窓に目をやると、ようやく安心したらしいグレミオが再びカップにお茶を注ぎだした。
 しかし、当のレイは。
(……うわ…。『なんかいやな予感』、じゃないよこれ…。相当いやな予感だぞ…)
 内心頭を抱えてしまう。
 これは風邪のほうがよっぽどよかったかもしれない、と思わずレイは溜め息をつく。
 すっかり騒動が身についてしまっているらしい。
「それじゃあぼっちゃん、私はちょっと出てきますので。なるべく早く帰ってきますから、本当に風邪なんかひかないようにあったかくしててくださいね」
「うん、わかってるって」
「そう言いながらぼっちゃんは寒い格好をなさっていたりするでしょう。グレミオはもう心配で…」
「ほら、早く行かないと。待たせてるんじゃないの?」
「ああっ、そ、そうですね! ではちょっと行ってきますから!!」
 グレミオが出て行くと、部屋の中がしんとする。
 その静かな部屋で、レイの溜め息がやけに大きく聞こえた。


 その直後。
 遠くの方からぱたぱた音が駆けてきた。
 レイは今度こそ頭を抱えた。
(…来たっ。来ちゃったよっ)
 その音はだんだんと近くなり、部屋の前に差し掛かるとダダダダッ、という騒音に変わる。
 次いで、ばあん、という馬鹿でかい音。
 ドアが激しい勢いで開いた音だ。
「たっ…大変だ、レイっっ!!!!!!」
 駆け込んできたのは、シーナ。
 いつもよりか少々マジな顔で、白い布包みを抱えている。
 よほど慌てて走ってきたのか、肩がぜいぜいと大きく上下しているが。
 レイはそんなことより、シーナの抱える白い布包みに目を落とす。
 一抱えもある大きな包み。
 それはもう、子供なら1人余裕でいそうな……。
「…一応聞くけど」
 レイは恐る恐る口を開いた。
「まさか……そういうことじゃ…ない、よね…?」
 わずかな期待を込めたレイのセリフ。
 ところがそれはシーナが勢いよく振った首によって簡単にぶち壊された。
「そういうこと…みたいだぜ」
 シーナがそう言うや否や。
 シーナの抱える白い布がごそごそと動いた。
 それはもがくように布を引っ張っている。
 そうして、……顔を覗かせたのは、やはり人。
 しかも子供。
 レイの脳裏にいやな記憶がよみがえった。
「……あのさ。つかぬ事を聞くけど、これは、もしかして、もしかする…?」
「いやー、レイの想像通りだと思うぜ…」
 マジで? と思わずつぶやく。
 色素の薄い栗色の髪に、鮮やかなグリーンの瞳。
 ふっくらとしたばら色の頬は少し見慣れた姿とは違うけれど、十分にその面影がある。
 なにも手を加えていないのに、まるで彫刻のように整った顔立ち。
 そりゃもう美少年と呼ばれるはずである。
 それでも、と淡い期待を寄せるレイであったが。
「いったいなんなわけ? さっさとその手、はなしてくんない?」
 子供特有の甲高い声、だがそれを押し殺したように吐かれたそのセリフは、紛れもなくその人のものである。
 いやな予感、直撃。
「今度はルックか……」
「あはは……」





 古びた机を囲むようにして座る。
 なんだかとても違和感を感じるのは、しかたのないことだろう。
 何せうち1人は完全に子供。
 不機嫌そうに腕を組んでいるあたりは全く子供らしくないが。
「えっと…まずは状況を…」
 体を縮ませるように座ったレイがちらりとシーナを見る。
 シーナはやはりちらりとレイを上目遣いに覗き込んだ。
「…いや。普通に、ルックのとこに遊びに行ったんだけど。でぇ、いつもみたく愛情いっぱい夢いっぱいの抱擁をプレゼントしようとしたら……」
「…………したら?」
「あっ、レイ怒ってる?」
「…なんで僕が怒んなきゃいけないんだよ」
「……怒ってるじゃん(小声)
「いいから。続き」
「……はぁ」
 なんで怒られんだろう、という顔をしたシーナをよそに、ちびルックは溜め息をつく。
「お熱いことで。…ぼくかえっていい?」
「「な……っ!!」」(ステレオ)
 がたん、と勢いよくレイとシーナが立ち上がった。
「えっ、えええぇぇ…!? お、オレとレイって熱々? 熱々?」
「うっさいバカ黙れ! ちょっと、何を根拠にそんな勝手なこと言うんだよっ!!」
「なぁなぁ、レイってオレに惚れてる!?」
「そんな事実はないよっバカ!!」
「ええええ〜!?」
 いきなり詰め寄るふたりをちびルックは冷たいまなざしで見上げる。
「バカばっか」
「バカって、ルックっっっ!!!」
 さらにレイが詰め寄る。
 ……と。
 シーナがふと我に返ったように、
「あのさ、レイ」
「何!!」
「…なんか、これっていつもと変わんないな」
 はたとレイもそこに気がついたらしい。
「…もしかしなくてもさ、僕たち…いつもこのレベル……?」
「だったりして…?」



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