〜みにまむ〜

= ちっちゃいぼっちゃん編 =

February 7th, 2002

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※ ギャグです。だからギャグなんですよう。



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 その日、外は大雨だった。
 つい1時間ほど前まではスカッとした晴天だったのだが、一体何が空の機嫌を損ねたのだろう。
 あっという間に黒い雲が空中に広がり、気がついたときには大粒の雨が地上を叩きつけていた。
 そんなものだから、船着場に着いたばかりの軍資を片付けるのに解放軍は大騒ぎになった。
 ようやく落ち着いたのは、ほんの数分前のことだ。
 やれやれ、と誰もが思ったところで、今度は突然の雷。
 湖一体はあっという間に荒れ放題になってしまった。
 それはほとんどの人にとっては単なる災難でしかなかったが、ほんの一部。
 新たな災害を予感している(というよりせざるをえない)者がいた。





「あ〜…よく降るねぇ」
 遠くの方から聞こえてくる雨音に間延びした声を上げたのは、壁に寄りかかってだらんと座り込んでいるシーナ。
 せっかくナンパにいそしんでいたというのに、この嵐の騒ぎで女の子たちもかりだされた。
 かといって、自ら手伝いに行くほど仕事熱心でもない。
 仕方なく誰も手伝いを要求しないだろう場所に避難してきたのである。
「…この調子じゃ、進軍も遅れるんだろうね」
 わずかに不機嫌そうな声で、部屋に置かれた石版の前に立っていたルックもつぶやく。
「なんだよ、せっかくオレと2人っきりなのに〜。軍の話?」
「話するだけでもありがたいと思ってよね」
「ホントにルックって、つれないなぁ」
 さらにかまってきそうなシーナを、ルックは無視することにした。
 ルックには誰も手伝いをしろ、とは言えないだろう、と見込んできたらしい、この男。
 それがなんとなく腹立たしい。
「ね、ルックったら」
「……うるさいよ。ナンパができなくなったときの避難所にされちゃたまんないんだよ」
「え〜」
「僕は騒がしいのが嫌いなんだ、って何度言ったらわかるのさ」
 いつになく、トゲトゲのたくさんついたルックのセリフ。
 シーナは不思議そうに首をかしげる。
「何で怒るのかなぁ。ルックにしろレイにしろさ」
「知るか」
 どうしたというのだろう、今日は完全に不機嫌だ。
 シーナはそんなルックを困ったように見ていたが、ふと、
「あ、レイっていえば。まだ軍資の整理終わんないのかな。リーダーって大変だよなあ」
「じゃ手伝いに行けばいいだろ」
「…ルックが怒る(小声)……」


 噂をすれば影、とはよく言ったものだ。
 程なくして、ふらりとレイが現れた。
 しかもふらりと、という表現がよく似合う、まるで亡霊でも部屋に入ってきたようでシーナは一瞬ぎょっとした。
「うわ、レイ、大丈夫? お疲れさん」
 慌てて声をかけると、レイは情けなさそうに笑って手を振った。
「うん、大丈夫。なぁんかこう…いやな予感が駆け巡ったせいで、ちょっとした心労モードなんだ」
 いやな予感?
 シーナはきょとんとレイを見る。
 と、そこにルックが腕を組んだまま話に加わってきた。
「それより、進軍の話はどうなったの?」
「あー…やっぱり延期。この波じゃ対岸まで船出すのも大変だから。そこまで危険冒して早急にやらなきゃいけない進軍じゃないからね。だから、ちょっと時間が空いちゃったんだよ」
 ってわけで…とレイは言葉をつなげる。
「2人とも…あのさ、お願いがあるんだけど」
 お願い、と聞いてルックまでもきょとんとした。
「お願い…って何?」
「デートのお誘いならいつでもオッケーだけど」
「「馬鹿」」
 シーナのボケ(?)に一応律儀に突っ込んで、レイは再び心労モード。
「…僕から、目を離さないでほしいんだ」
 はあ?


 あっけにとられたシーナとルックに、レイは拗ねたような顔をした。
「…そりゃあ…なんか、お願いっていっても微妙ではあるんだけどさ。ここのところは軍の方で忙しかったから誰かしらそばにいたわけじゃん? でも、こんな風にぽつんと時間があるとそういうわけにもいかないと思うんだよね。だから……こんなの、2人にしか頼めないんだよ」
 ぽん、とシーナが手を叩く。
「あ! そっか! この前みたいなアレ…を懸念してるわけだ!」
「そういうこと」
 上目遣いのレイ。
 ルックもそこでようやく思い至って…表情を厳しくした。
「……あれ、ね。なるほど。そりゃあ気分も悪いだろうね」
 どうやらルックは自分が『あれ』に巻き込まれたときのことを思い出しているらしい。
 それを慌ててなだめて、シーナは乾いた笑いを浮かべた。
「だよね…。レイがちっちゃくなっちゃったら、それこそシャレにならないもんな…」
 そう、ある日突然降りかかる、『ちっちゃくなっちゃう症候群』。
 ちなみにこのネーミングはシーナが便宜的にと名付けたものだが、レイとルックには評判が悪かったりする。
 それはさておき、この『ちっちゃくなっちゃう症候群』。
 症例は今までたったの2例、しかも原因がまったく不明。
 誰かが目を離した隙に、あっという間に4歳から5歳の子供に早変わり、という奇妙この上ない症状を引き起こす。
 しかも記憶が非常にあやふやになるせいか、かかった者にはやたら印象が悪い。
 で、それに巻き込まれたのがほかならぬシーナとルックだったのだ。
 何とか今まではこの3人の中にしか知られていない……と言うべきか、この3人だからこそ起きていると言うべきか。
 どちらともつかないから、他の誰かと一緒にいるときにちっちゃくなって大騒動になるか、秘密を知っている2人と一緒にいてあえてちっちゃくなってしまうか、その判断がつかなかったりする。
 厄介だ…まったく厄介だ、と思う。
「せめて原因がわかればなぁ。何とかなりそうな気もするんだけど」
 つぶやいたシーナに、レイは恨みがましい目を向ける。
「…その前に、もう起きないでくれれば言うことないんだけどね」
 それに対しては、ルックの溜め息。
「起きないかどうかもわからないんだから、面倒な話だよ」
 まったくだ。
「…うーん、まあとにかく、オレたちが目を離さなけりゃちっちゃくなることもないんだよな?」
「経験上はね。でも完全に目を離さない、ってこと可能だと思う?」
「さすがルック、シビアだねぇ。…まあできる限り、ってことで」
「それで僕がちっちゃくなっちゃったら、どうしようもないよなあ……。シーナとルックがちっちゃくなったの、僕見てるからさ。自分がなにやらかすかと思うと怖いよ」
 はああ、と溜め息。
 自分たちもやっている以上、それ以上何も言えないシーナとルックだった。


 と。
 フロアに面していた窓のほうから、ぱっと白い光が飛び込んできた。
 あ、と思うまでもない。
 すぐに「どおおぉぉん」と大きな音がした。
「…うっわ。今落ちた雷…ずいぶん大きかったなぁ」
「近いね。光ってすぐに音がしたから」
 びりびりと音が振動になって手のひらに残るような大きな音。
 思わずそんな会話を交わしたシーナとルックだが、ぴたりとルックが動きを止める。
 シーナが不審げにその顔を覗き込んだ。
「どーした、ルック?」
「………僕たち、今…窓の方、見たよね?」
「ああ、うん。でっかい雷だったよな」
「…ってことは…僕たち2人とも、窓の方見たんだよね?」
「そうだな……って」
 はた、とシーナもそこに思い至る。
 窓のほうを見た…と言うことは、視線がそちらへ集まった、ということで…つまり……。
「……やっちゃった?」
「…かもしれないと思わない?」
 おそるおそる、2人は振り返る。
 それこそ、恐ろしいものでも見るように。
 すると。
 そこにはやはり、恐ろしいものが。
「?」
 目を丸くして2人を見上げる小さな子供。
 何が起きたのかわからないように、ことんと首をかしげている。
 いつからこの子はいたのだろう。
 …いや。
 そんな現実逃避をしても始まらない。
 ここには最初から3人しかいなかった。
 つまりは。
「…ああああああ。やっちゃったよ…ど、どうしようルック!」
「そんなこと僕に言ったってしょうがないだろ」
 どうやら、今度はレイの番のようだ。



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