みにまむ’
=約束のかたち=
− 3 −
かくして、即席の捜索隊が結成された。
言い出したグレンシールが指揮をとり、あっちだこっちだと探していく。
ルックは何度も探したというが、大勢で探せば見つかる確率はたしかに上がる。
それにひとりで探すのは、なにより淋しい。
「たいちょうー。ここにはないよ」
「裏側も見た?」
「あ、そっか……」
「一度見たら、もう一度大きく息を吸って、吐いてからまた見てごらん。たとえば、自分だったらどこに隠したら見つからないと思う?」
すっかり「隊長」になりきったグレンシールは的確に指示を出す。
レイはてきぱきと物陰を探し、シーナは真面目な顔であたりを見まわす。
ルックは何も言わずにふたりのそばで静かに探していた。
そうしてみんなで探していることで、少しはルックの気も紛れているらしい。
さっきまでの触れたら崩れ落ちそうな雰囲気はなくて、ずいぶんと落ちついたようだ。
時々ふたりに声をかけられ、言葉少なではあったが反応をちゃんと返すようになっていた。
グレンシールはそっと微笑った。
……だから。
だからさっき言ったのだ。
大切なのは、レイが渡した「証の石」ではない。
本当に大事なのは、それを渡したレイの心なのだと思うし、受け取ったルックとシーナの心だとも思う。
もちろん、「それでも」と思うから来たのだけれど。
「そろそろいいかな」
ぽつんと言った声を、ちょうどそばに歩いてきていたアレンが聞いた。
「そろそろって、なにが?」
アレンは3人と一緒になって一生懸命石を探していたのだ。
一通り探して見つからないので、どうするか相談しようと戻ってきたらしい。
「あぁ、お疲れ。『副隊長』」
「誰が副なんだよ」
「正の方がよかった?」
「いや、そういうんじゃなくて……」
がっくりとアレンが肩を落とす。
長年組んでいる相手ではあるが、どうもこのノリがいまいちよくわからない。
その疲れ果てた様子のアレンにグレンシールは笑った。
「なにがそろそろなのか、って話だっけ。いや、この宝捜しをね」
「切り上げってことか?」
「そういうわけでもない」
答えを促すアレンをのらりくらりとかわす。
そうして狐につままれたようなアレンを残し、一生懸命に石を探す3人のもとへ歩み寄った。
「さてと。そろそろ疲れない?」
「だいじょうぶ!」
「まだへいきだよ!」
レイとシーナは元気よくそう返事をし、ルックが頷く。
グレンシールもそれに笑いかけながら、
「そうだね。だけど、ずっとそうやって下を向いてると、体に悪いよ。ほら、背を伸ばして。うんと反り返ってごらんよ」
「せをのばすの?」
「そ。隊長命令だよ」
冗談めかして言う。
そんな言い回しの方が、素直なこの子たちにはいいだろうと思ったからだ。
思惑通り、3人は顔を上げて背を伸ばし空を仰ぐ………。
「あっ!」
「レイ? どうしたの?」
「ほら、あそこ…あのおうちの、2かいのまどの、えっと…うえきばちのところ!!」
「くらくてよくみえないけど…」
「光ってるよ!」
「! あれだよ、きっとあれだよ!」
「でも2かいだよ?」
「あそこのおうちにいってみようよ。はなせば入れてくれるよ!」
競うように、3人が駆けていく。
あっけにとられたのはアレンだ。
怪訝な顔でその家に近付くと、下から植木鉢を見上げる。
たしかにそれは、レイとシーナが持っていた石とよく似た形をしている。
「…グレンシール? もしかしておまえ、あそこにあるのに気が付いてたのか?」
「ん? あぁ、さっきね。下を探してなかったから、上だろうとは何となく思ってたけど」
グレンシールは言いながら上を見る。
大通りに近い家の2階…窓の外に吊るされた植木鉢、そのピンクの花の陰に紐ごと絡まった緑色の石。
日差しを浴びてきらりと光っている。
「だけど…どこか他に持ってかれてたらわからなかったのに」
「いくらリーダー格の子だからっていっても、小さい子だからね。そのくらいの子供って物を取り上げたとしてもどこかに持っていくほどの度胸は案外なかったりするんだよ。でもすぐに見つかると意味がないだろ? だったら手の届かない場所に置いてしまえばいいしね」
「なるほどな…」
おそらく、力いっぱい上に向かって投げたのだろう。
しかし、アレンには思いもつかなかったが。
「……あれがなくなったからって」
「ん?」
「おまえ、言ってたじゃないか。あれがなくなっても別にあの3人は変わらないんだって」
「そうだね。そう思うけど…だけど、あれがあっていっそう絆が深まるなら、そっちの方がいいじゃないか」
「そう言われればそうかもしれない…。でも、どうしてあそこにあるってすぐに言わなかったんだよ」
「僕が見つけるんじゃ意味がないからね。あの子が落ち着くのも待ちたかったし。3人で見つければ、それは新しい証になるはずだから」
「………そんなキザなセリフ、吐く奴だったんだな……」
「それほどでもないと思うけど?」
「オレよりおまえの方が年が下だなんて、誰も信じないだろうな」
「たった1つじゃないか。精神年齢の話をするともっと離れてるかもしれないけど」
「……どっちが下だよ」
「明言は避けとく」
ふたりが見上げる窓が、かたんと開く。
3人の顔が同時に覗いて、小さな手が伸ばされた。
足音は、ぱたぱたと軽い。
けれどそれはひとつではない。
忍び会う笑い声が泳ぐように道を進んでいく。
きっと帰り着く頃には朝から煮込んでいたシチューが完成しているだろう。
暖かい湯気が迎えてくれる家には、あとほんのわずかな距離。
5つの影が長く伸びていく。
先を走るのは小さな3つの影。
その手の中には、
変わらない約束の、かたち。
きらりと、光る。
Continued...?
<After Words> |
うー。難しかった。なにが難しかったかって、アレンとグレンが。 とりあえず資料としては原作ゲームオンリー。…と思ったのが運の尽き。 つか、改めてふたりのセリフを見てみると……あまりの少なさに愕然(笑)。 そう言えば、水滸伝でもこの人たちの星ってひとことふたことしか喋らないんだっけ? 妹。が愕然としてましたっけ。 えぇ、書いてみたかったんですよ。アレンとグレン。 熱血が表面に現れてる奴と内面でめちゃくちゃ燃えてる奴のコンビ。 でも話の展開上、その辺を押さえて書いてるので、一体このふたりになんの意味が(笑)。 そうですって。書いてみたかっただけですって。ハイ、正直に申しますよ。 前回の「Rainy〜」がグレミオ視点のみにまむトリオだとすれば、今回はふたり視点かな。 ほんと、レイって大事にされてますよね〜。 ところで、わたしが今回の話で一番気に入ってるのは、グレミオの鼻歌です(笑)。 しかも本当にアレンとグレンが来たことに気付いていないあたりが グレミオのグレミオたるゆえんかなと。ぼっちゃんしか見えてない……(笑)。 あ。ちなみにアレンが年がどうの…といってますが。アレンが15歳、グレンが14歳です。 ぴっちぴち(死語)だね! もひとつちなみに。 あの「花通り」…お察しの通り、突き当たりにミルイヒ(28)が住んでます(笑)。 |