みにまむ’
=約束のかたち=
− 2 −

 扉を開けるや否や飛び込んできたのはシーナ。
 シーナは、
「母さんにおつかいたのまれてて、それでおくれちゃったんだ」
 と笑いながら謝った。
 そしてそうこうしているうちに、ルックが姿を見せた。





「えっと…まずはこのカードを出して…」
「じゃ、オレはこうで」
「あああっ、アレンおにいちゃん、ずるいっ」
「そうか? …実はオレよりグレンシールの方が姑息なような気がするけど……」
「作戦だよ。僕は頭脳派でね」
「グレンおにいちゃんはいいの〜」
「だから、なんでオレだけっ」
 久し振りにマクドール家に寄るということで、アレンは最近巷で流行っているというボードゲームを持ってきていた。
 たまにはこういうもので遊ぶのも悪くない、ということでレイの部屋でゲーム大会となったのだ。
 シーナはすぐにふたりと打ち解けたし、ルックも拒絶はしていないようだ。
 幼い子供相手でも、アレンはひたすら熱いし、グレンシールも手を抜かない。
 それが3人にとっては張り合いになるらしく、ゲームは思い切り盛り上がっていた。
 …けれど。
 時々、レイとシーナが視線をちらちらとルックに送る。
 対してルックは目を伏せていることが多かった。
 3回目のゴールもグレンシールが奪ったところで、レイが小さく首を傾げた。
「……ルック? どうしたの? なんか、すごく、かなしそう……」
 ルックがはっと顔を上げて、…弱く頭を振る。
「だって、ずっとさっきからなにかきにしてるよな? なに? おれたちに言いたいこと、あるんじゃない?」
 シーナが続けて、ルックは途方に暮れたような顔をした。
 それでなくとも表情が乏しい(ように感じた)ルックの様子からは、アレンとグレンシールはなにも受け取れなかった。
 だから、一体どうしたのかと顔を見合わせる。
 レイとシーナはじっとルックを見た。
 そのレイとシーナを見比べるように何度も視線を移し、ルックはすっと俯く。
「あのね……ぼく…ごめんね」
「どうしたの?」
 小さな手が、強く握り拳を作った。
「…なくしちゃったんだ……。レイがくれた、あの石……」
「石…。さいしょにわたした、あれ?」
「うん……。レイが…くれたのに……」
 出会った時、レイがふたりに渡した小さな石。
 レイには赤の、シーナにはオレンジの、そしてルックには緑色の石。
 それはレイの宝物だった。
 大切にしていたそれを、大切な友達の証として、ふたりに贈ったそれ。
「…いいよ。きにしないで?」
 レイは困ったように言った。
「あのね、あれは…なんていうのかな、ちがうんだ。なくなったから、って…えっと」
「そう…だからさ、ルック、顔あげてって」
「だけど」
 完全に気を落としてしまっているらしい。
 ふたりの声にも顔を上げようとしないルックに、レイとシーナが慰めようと言葉を繋げる。
 が、うまく言葉にはならない。
 どう言ったらいいのかと困り果てて、もどかしそうに首をひねる。
「……つまり、」
 ふいにグレンシールが声を上げる。
「それは友達の約束の形だったんだね。だけど、それは友達だからその石があったんであって、石があったから友達だってわけじゃない……そう言いたいんだよね、レイとシーナは」
 全員がはっとしたようにグレンシールを見た。
「だから、君がその石をなくしたからといって、何かが変わる訳じゃないんだ。……状況を、話してくれる?」
 グレンシールは上目遣いでルックにそう告げた。
 ルックは視線を迷わせ、悩んでいたようだ。
 だが、やがてぽつぽつと話し出す。
 いつもどおりに家を出たこと。
 途中で年上のグループの、リーダー格の少年と鉢合わせしたこと。
 そこでレイとシーナが反応する。
 どうやらルックのことを気にくわないらしい、あの連中だ。
 ルックは続ける。
 その少年と言い合ううちに、向こうが手を出してきたこと。
 そして紐を通して腕に巻いていたその石を、紐を引きちぎって取られたこと。
 どうやらそれを隠されたらしいこと。
 …いくら探しても、見つからなかったこと。
 そのせいでここに来るのが遅れたらしい。
「……あいつ、まだ、その辺にいるのかな」
 シーナが言って唇を噛む。
「おっかけてって、とりかえすの?」
「うん」
 黙ってルックの話を聞いていたグレンシールは少し考え込むようにしてから、
「いや。もう一度、みんなで探してみようか」
 告げて、立ち上がった。


 甘い香り。
 レイに手をひかれて、もう一度そこへ戻る。
 花の色は柔らかく、鮮やかだけれど、それは目には映らない。
「このあたり?」
 前を歩いていたグレンシールが振り返って聞くと、ルックは小さく頷いた。
「確かに、ここって人通りも少ないな」
 置いてあった台車の下をひょいと覗き込みながら、アレンが呟く。
 シーナも同じところを覗いて首を傾げる。
「じゃあ、あるとしたら、ここなんだよね?」
「わからない……どこか、ほかのところへもっていっちゃったかもしれないし」
 ルックの抑揚のない声。
 聞いていたレイとシーナの方が悲しそうな顔をした。
 グレンシールは腕を組んで、
「まだそう決めつけるには早いよ。もしかしたら、さっき探した時には見落としてたかもしれないだろ。もう1回、みんなで探してみよう」
 全員にそう告げる。
 レイとシーナが思いきり頷き、ルックもそっと視線を落とした。



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