Happy Halloween Second Season
Side : A
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なんだってこいつ突拍子もないかな。
何度も思ったことを僕はもう一度思う。
掴みきれないっていうのかな。
振り回されてるだけな気もする。
それって普通は頭に来ることなんだろうな。
でも、なぜだか、いやな気はしない。
主導権を握られてると同時に、甘やかされているような。
シーナといると…なんだろう…妙な感じがする。
困る…でもなくて…いやだってわけでもなくて……戸惑う?
そう、そんな感じだ。
どうしたらいいのかわからなくて……いつもわめいて終わってしまう気がする。
「なぁ、レイ?」
「なっ…なんだよ」
「さっきから黙ってるけど。もしかしてご機嫌斜め?」
「どうしてそう思うわけ」
「え…ほら……こっそりレイの部屋に忍びこんだからさー。驚かせちゃったかと思って」
驚かせた?
あぁそれはもう驚かせていただきましたよ。
客間で寝てたはずなのに、起きたら目の前に顔があるんだからさ。
驚くなって方が無理じゃない?
「……心臓に悪い。いつの間に僕のベッドに入り込んだんだよ」
「夜中。だって、すごく冷えたじゃん。寒くなっちゃって」
「声かけてくれれば他に布団くらい何枚か出したよっ」
「いやー、レイ、気持ちよさそうに眠ってたからv 起こすの悪いと思って」
なんにも言わずに隣で寝られてることの方がとりあえず心臓には悪いんだけどな…。
ものすごい至近距離で、頭の中が真っ白になった。
で、また起きてからのセリフが腹立つんだ。
開口一番、「あ、おはよ」。
こっちは朝から脈拍が大変なことになってるのに、のんきにそう言われる方の身にもなって欲しいよ。
まぁ……こいつが常識の範疇から外れてるのはとっくに知ってたからね。
たしかにいちいち驚かされるけど、それがシーナなんだって妙に納得できるようになった。
正直なところ、家に帰ってこいつがいた時、半分くらいは「こいつならやりかねないか」と冷静に思ってたりしたんだ。
だからそれはいいとして。
「シーナ?」
呼ぶと、前を歩いていたシーナがくるりと首だけこっちに向けた。
「んー? なに? ハニーv」
「だぁれがハニーだ」
「じゃあマイスウィートハニーv」
「そんなものになった覚えはないんだけど。ってゆーか微妙にレベルアップさせるな!!」
「あははははは。本気なのにー」
ったく。
困った奴……。
「じゃ、なくて。今日はいったい何の用なの?」
「あ、それか」
今気付きましたって顔。
おいおい、ちょっと待て。
それってかなり重要なポイントだと思うんだけどな。
「んー…それってやっぱ知りたい?」
「普通はね。人ひとり攫いに来たってからには理由があるのが一般的じゃないか」
「なるほど。じゃあ、『可愛かったので思わず』……」
「思わず、で延々とグレッグミンスターまでようこそ」
「えぇええ? ダメ? オレってば負けてるなぁ…。ただオレ、レイに会いたかったんだよ。顔を見ないとおかしくなりそうだった。どうしてもふたりきりになりたかったんだ……。っていうのは?」
はいはい。
一体どこまで本気なんだろう。
一瞬真面目な目はしてたけど。
「おまえがおかしいのいつもじゃん。で? 今日は何?」
「あ。ひでー。信じてくれないんだ」
「信じるには日頃の行いがちょっとね。ほら、僕が信じるに足るような正当な目的は?」
「それが立派な目的だったらどうするんだよ」
「残念ながら。その理由なら、僕を攫うだけなら矛盾はないかもしれないけど、行き先がバイオスフィア城なんだろ? そこがありえないね。僕を何かに誘うことじゃなくて、僕自身が目的なら連れ出す先はどこだっていいはずだよね。だったら知り合いがごろごろいる上に親善大使として一応重く見られてるあの城は立てこもり先には向かないんじゃないかな。……違う?」
「………いや。お見事」
何もないのにシーナが僕をあの城に誘うはずはない。
ふたりとも「立場」ってものがあるから。
残念ながら、ね。
シーナは僕の顔を見つめて、にっと笑った。
「実は。パーティのお誘いに馳せ参じました。…ハロウィンだからね」
………え?
思っても見なかった言葉に、僕はまじまじとシーナの顔を見返す。
けど、じわりと実感はあとから襲ってくる。
それって…去年……。
「な……っ。ハ…。って……」
ああダメだ何言ってんだ僕。
まともな言葉が出て来やしない。
深呼吸……。
はあ、ちょっと落ち着いてきたぞ。
ハロウィン?
「ほらさぁ、去年はユウキに先越されちゃっただろ。オレとしてはさ、結構悔しかったりしたわけ」
「……なんでだよ」
「なんでって、オレとレイって深ーい深ーい付き合いじゃん!? そのオレじゃなくてユウキが誘いに行くなんてさー」
「だったら去年だってシーナが来ればよかったじゃないか」
「そ、それは……オレも、戦争中の軍にレイをあんまり呼ぶのもなって」
気を遣ってくれてたわけか。
了解。
それで去年僕がすんなり来たから、ならいいだろうってことか。
………。
まったく。
しょうがないなぁ……。
「事態は納得したよ。それで、今年はユウキは行動起こさなかったんだ」
「え? そんなことはないぜ? もー、ことあるごとにそっち行こうとするからさー。さりげなく裏から手を回して邪魔してやった。ビッキーをお茶に誘って無理矢理連れ出してさ、そうするとテレポート出来ないわけじゃん? だからルックのとこ行くんだけど、バナーの村にテレポート頼んでも、わざと違うところに送られるって寸法でさ」
「……ふぅん」
ルックが?
なるほど、ふたりで組んでたわけか。
言っちゃ悪いけど、珍しいなぁ…。
しばらく森を歩くと、煙が見えてきた。
森が切れて、村へ出るんだろう。
当然途中戦闘になることもあったけど、大したことじゃない。
それでも、シーナとふたりで協力しながら戦うのが、すごく不思議な感じがした。
なんだろう…すぐに意思が通じる。
僕がいて欲しいと思ったところにちゃんといてくれたりするから、すごく楽だった。
「ルック、もういるかな」
「え? 来てるの?」
「本当はふたりでグレッグミンスターまで行きたかったんだけどさ。オレはともかくルックがいないと不審に思われるかもしれないし。だからルックはユウキを止めてる。で、オレがお迎えってわけv」
僕はその打ち合わせをしてるふたりの姿を想像してちょっと笑う。
一見なんの接点も持ってなさそうだし、性格的にも合わなそうだし。
だから周りから見たら、ふたりが顔をつきあわせて話してる姿は異様に映ったろうな。
やがて、森の終わりが見えた。
静かな音をたてる川を渡れば、すぐに村に入る。
行き交う人の流れ……。
大きな町とは規模が違うけれど、それでも生活している人々の活気が感じられる。
僕はこういう空気、好きだな。
そして、その人たちの向こう……壁にもたれるようにして、ルックが立っていた。
ルックって目立つなぁ……。
背は高くないから、すぐに人の波に埋もれて見えなくなる。
でもちらりと一瞬見える姿に、ものすごく惹きつけられる。
普段あんまり意識しないけど、本当、ルックって綺麗だからね。
周りと雰囲気が全然違うんだ。
手を振ると、わずかに首を傾げる仕草。
「お疲れ」
近くまで来ると、ぽつんとそう言う。
「大した労力じゃないよ。突拍子もない使者には驚かされることたびたびだったけど」
「だろうね」
「喜んでくれて嬉しいなー」
「誰がだ、誰が」
笑ってシーナの頭を小突く。
ルックが肩をすくめる。
ああ……。
すごく、楽だな。
「…それにしても、使者にもびっくりしたけどさ。ルックが共犯だったなんてね」
「……は? 共犯?」
「だってシーナが使者になるために、ユウキを阻止してたんでしょ。立派な共犯だよ」
「別に、僕は、そんなつもりじゃ……。シーナっ、どういう説明したんだ?」
「ありのままー。脚色もなんにもしてないし?」
ルックは大きく息を吐いた。
そして、僕をちらりと見る。
「僕は乗り気じゃなかったんだよ。たしかに…こいつのノリには押されたけど。でも突然腕掴んで引っ張ってこられたわけじゃないんだろ? だったらレイの意思も存在してたわけだ」
「え? う、うん……」
「それじゃあしょうがないね。この件に関しては僕は責任持たないから……諦めることだね」
あの…ルック?
その言葉の意味は……?
怪訝に思って視線を巡らせる、その先のシーナがやたらとにやにやしてるのが妙に気になる。
な、なんなんだ…?
一体どんなパーティをするってわけ?
……僕は後悔の予感をなんとなく感じていた。
Continued...
<After Words> |
うっわー。 とりあえずごめんなさい!!! とりあえずコレって「間に合ってない」という解釈でいいんですよね? 本当に間に合わないとは誰も思ってなかっただろうな…。 いえ、もしかするとほとんどの方が「いや、間に合わないだろう」と 思っていたかもしれません…こっちも驚きましたもの。 …て、わけで。 ハロウィン過ぎてから本編に入るという極道極まりないことに なってしまいました…もう笑うしかないですね。あはは。 「あれ? なんかレイとシーナ、すごく仲良くない?」って思って いただけたならば幸いです。ハイ。 次回に続きます!! カミングスーン。 |