Happy Halloween Third Season
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司会のナナミの言うとおり、東軍と西軍の成績はほぼ同じだ。
どちらかが突き放しにかかれば、片方が食らいつくといった感じに。
フリックとビクトールは既に雑談に入っている。
レイも時々その輪に加わるのだが、さすがに自分が賞品となると、やはり気になる。
それでなくとも、シーナとルックに迷惑をかけている気がして、本当に気が気でなかったから。
「では、とうとう最終問題です!! この問題は、チームリーダーだけが答えることができまーす! メンバーの皆さんは、リーダーにすべてを任せてくださいね。そして、この問題に正解したチームには1万点を差し上げます!」
「えええ、それじゃ今までのなんだったんだよ」
シーナがお約束のツッコミを入れる。
ただ、その目は真剣だったけれど。
「問題っ! レイさんが今朝飲んだ紅茶はなんだったでしょうかっ!!」
えええええ!?
会場から、両リーダーから、どよめきが起こる。
当のレイもぎょっと目を瞠った。
今朝…?
まだあれはグレッグミンスターでの出来事だ。
朝一番で起き出してきたルックとふたり、紅茶を飲んだ。
シーナが起きたのはそれよりあとのこと。
しまった、と思う。
この答えをシーナが知っているはずはない。
せめて全員に解答権があったなら、ルックが答えを知っていたはずなのに。
「さぁ、お考えいただきましょう! 解答はフリップにね!」
ルックが教えれば、それは失格と見なされてしまうだろう。
困った。
どう出るか?
レイが対策を練りかねているうちに、時間は来た。
もともとこんな目立つ位置からはどうしようもなかったのだけれど。
「それでは答えを出してください!」
ふたりが一斉にフリップを出す。
ユウキの答えは、ピーチ・ティ。
シーナの答えは、ストロベリー・ティ。
ふたりともいい線をついてきた。
どちらもレイが好きなお茶だ。
「では、この問題は……レイさん自身に答えていただきましょう! お願いします!」
ナナミが駆け寄ってきて。
マイクをレイに向けた。
両軍が、解説と実況のふたりが、会場が、一斉にレイを見た。
レイは動きを止める。
間。
誰もが息をのむ。
会場を見渡し、そして最後にルックと、シーナを見る。
そうして息を吐くと、ナナミに視線を戻した。
ふわ、と、笑う。
「………ストロベリー・ティです。シーナの、正解」
ファンファーレ。
わああ、と騒ぎ出す会場。
立ち上がるシーナ。
色とりどりの紙吹雪が降ってくる。
会場には銀テープがぱぁんと打ち出される。
ああ、なんて派手なお祭りなのだろう。
ばたばた、シーナが駆け寄ってくる。
そしてそのまま、シーナはレイを抱き上げた。
「わっ」
「はーい、天使様ゲット! 残念だったなぁ、ユウキ!」
「……僕は本気で勝ちに行きました」
悔しそうなユウキが呟く。
騒がしい会場では聞きづらかったが、シーナは聞こえているのかいないのか、にぃっと笑う。
「ま、お疲れさんっ。勝負の結果は出たな。それじゃー、会場の可愛いお嬢さんたち、楽しんでくれたかな!? シー・ユー・アゲインっ! バイバイっ!!」
きゃあああああ。
ウィンクでぴしりとポーズを決めるシーナに、少女たちの悲鳴が上がった。
いつもの広間はどこから見てもパーティ会場。
中央にはずらりと料理が並んでいる。
3人は、その端にいた。
さっきまではテンプルトンがいたのだが、
「今日のは貸しだよ。お疲れ」
と告げてどこかに行ってしまった。
あの白熱したクイズ大会は出場者にとってそうとう体力がいるものだったようだ。
同じくルックも疲れた様子。
一番目立たない壁際の椅子にレイと並んで座っている。
ただ様子を見守るだけで何もできなかったレイも同じようにどうやらすっかり疲れ果てているようだ。
それが普通なのではないかと思う。
目の前で立っている奴が普通ではないのだ。
シーナはふたりのまえでにこにこと嬉しそうにしている。
時々人がやってきて、さっきのバトルの感想を言って去っていく。
たしかに観客にしてみれば、楽しいハロウィンイベントに華を添えた英雄に見えるのだろう。
いちいち行動が派手だし、反応をちゃんと返すから、舞台の下から見ればたいした役者だ。
やれやれ、とその笑顔を下から見つめるレイ。
「? なに?」
「うん? なんでもないよ」
どうやら今一番テンションが高い位置にあるらしい。
空にでも駆け上っていってしまいそうなくらいだ。
「…じゃあ、シーナ、飲み物なんか持ってきてくれない? さすがに、喉渇いた」
「ああ、ずっと奥に座ってたんだもんな。なんでもいい?」
「うん、いいよ」
「僕も」
「オッケー♪」
嬉しそうにひらひら手を振ると、人をかき分けてシーナは広間の中央に向かっていった。
あとに残されたのはレイとルック。
後ろ姿をぼんやり眺めていたが、その背が人の波に見えなくなると、ルックが息をついた。
「………まったく。大騒ぎに結局僕も巻き込まれちゃったじゃないか」
「ほんとだよね。ごめん」
「レイが謝ることじゃないだろ。レイのせいじゃないじゃないか。…もちろん、あの上機嫌な馬鹿のせいでもないけど」
イベントの盛り上げ役。
結局はそんな策略に乗せられたのだから、恨むべきはあの軍師か。
どうやらユウキは本気でシーナと雌雄を決したかったらしいが。
もちろん尊敬してくれるユウキをありがたいと思いこそすれ、嫌だとは思わない。
けれど、どうしてわからないのだろう。
比べるものではないということを。
測るべき定規は最初から違っているということを。
「あの馬鹿、本当にわかってないみたいだからね…。結局長時間やってたあのふざけた大会、なんの意味もなかった、って」
「バイオスフィア全体ならともかく……僕の所有権、に関してはね」
レイはいたずら好きな子供の顔で、笑う。
呆れたようにルックは肩をすくめた。
「まあね。それは最初からわかってたことだけど。……今朝レイが飲んでたのはピーチ・ティだったろ」
「うん」
正解は、ユウキの方だった。
だから勝ったのは向こうだったのだ。
でも、答えはレイに託されていた。
紅茶の種類じゃない。
選ぶのは、シーナか、ユウキか。
そしてレイは、シーナを選んだのだ。
迷うはずもなかった。
シーナとユウキを天秤にかける行為自体がまず間違いだ。
ユウキはユウキ、シーナはシーナ。
比べるものではない。
たとえ、あの場でシーナが負けていたとしても、最終的にレイはシーナの隣にいたはずなのだ。
「……まったく。無駄な労力使わせて……。あんなの、子供の喧嘩だよね」
「本当だよ。僕が誰のものかなんて…。今更張り合って決めるもんじゃないのに」
仕方のない奴。
顔を見合わせて、溜め息。
そこに、グラスを3つ持ったシーナが戻ってくる。
「ただいまー。……どうしたんだよふたりとも」
「ああ、おまえってどうしようもないよね、って話」
「えええっ? オレ?」
グラスを受け取りながら、やっぱりわかってないか、とレイは思う。
でも……きっとわかってしまっては気恥ずかしいから、まだ黙っていよう。
やれやれ。
騒動はまだまだ続いてしまうのだろう。
それも悪くないかな、ともぼんやり思うけれど。
「さて、と。これからどうしよっか」
「そうだなぁ。とりあえず城の中色々見て回ろうぜ〜。屋台とか出てるんだってさ」
「へえ……。ルックも来るでしょ?」
「いったん外に引き出されちゃったからね…しょうがない、行くよ」
「だよなっ!! やっぱ、3人が一番いいもんな!」
満面の笑みの、シーナ。
それに呆れ顔のルック。
思わず吹き出したレイ。
そう……。
「「そうだね………」」
きっと。
他の誰といるよりも。
君と、いられることが。
なによりの……
Happy end?
<After Words> |
ええと。 どこからつっこんでいいのかわかりません。 そうだなぁ……じゃあ日付をつっこみましょう。 「ハロウィン過ぎてんじゃん!!」 はい、皆さんこれでスッキリしたかと思います。 ここですよねー、一番つっこむべきところは。 雰囲気的にレイ様告ってないか、ってコトではないですよねー。 そうですよねー。 とある御方に締切びしっと決定させられて半分近く今日書いた という事実にでもないですよねー。 そうですよねー。 気を抜くとレイ様が危ないです。 たまに我に返ってどうしようかと真剣に悩む自分。 なんだかハロウィンもシリーズ化してるみたいですよねある意味。 あわわわわ(笑)。 そして壁紙が異様に微妙。 しまった、つっこむとこだらけじゃありませんか!! 密かにみんなの衣装もデザインはしてあるので、ユウキとナナミ あたりはイラストにしたかったんですけど……。 しっかり時間切れでした。 え? レイ様とシーナ? ……ねぇ(笑)。 |