〜 Happy Halloween Fourth Season 〜
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 結局その恒例の妙なバトルは負けたユウキが芝居がかった捨て台詞(本当に用意していた台詞だったらしい)を吐き捨て、ついでにステージショーのチラシをばらまいて去ることで終わった。
 やりとりを見ていた観客は必然的にそのチラシを目にすることとなり、「面白そう」とそちらに移動する者も少なくなかった。
 つまりは、アレか?
 ユウキは宣伝のためにここにわざわざ現れたのか?
 あの軍主はこのイベントを本気で成功させるつもりでいる。
 とすれば、開店前の準備中に現れた方が、接客に集中するレイの邪魔にもならないし、イベントの進行の妨げにもならない。
 実際に昨日は準備中に現れたのだし。
 それが本番の今日になって、一番忙しい時間帯にやってきたということは……。
 いいようにユウキに使われたのかも知れないな、とレイは息を吐く。
 いや、会いに来てくれたのも、再会を喜んでくれたのも、おそらく本音だろうけれど。


 その推測を口にすると、ルックは「だろうね」と一言。
 シーナもうすうす感じてはいたようだが、レイをユウキにとられるのが嫌だという感情が表にたったようで、あれは本気のバトルだったらしい。
 あのあとも過剰にレイをガードするようなそぶりを見せていたが(それが余計にギャラリーを騒がせたようだ)、しばらくするといつも通りの軽口に戻っていた。
 レイとしては、それがほんの少し複雑だったのだけれど。
 そんな騒ぎがあり、人の波はさらに数を増し、夕方になる前にすべての商品は売り切れた。
 ふたりの海賊衣装もさることながら、グレッグミンスターの人々による手作りの商品ということで、懐かしさを感じて買い求める人も多かった。
 それは忙しくもあったけれど、とても充実した時間だった。





 そして今は、“おかげさまで売り切れました”の看板をテントに残し、立ち並んだ露店の間を散歩している。
 立ち並ぶ露店には、珍しい品、手作りの品、様々なものが並んでいる。
 町並みは黒とオレンジの装飾に、カボチャのランタン、コウモリの飾り。
 白い布を被る人、黒いドレスの少女、とんがり帽子の子供。
 どこからともなく流れる音楽、芸に湧く人々、広がる踊りの輪。
 それを眺めながら、のんびり歩く。
「企画がよかったよな」
 笑って、シーナ。
「企画というより成り行きだったけどね。あんなにたくさんの人の協力が得られたからだよ。……みんなも連れてきたかったなぁ」
 本当はここに来たかった人もいるはずだ。
 でも、かつて共に戦った仲間たちだからこそ、遠くから協力することを選んだのだろう。
「そうだなぁ…。じゃ、一緒に帰ってみんなに報告する?」
「そうしようか」
 レイはくすぐったそうに頷いた。
 お菓子があっという間に売り切れたことや、仲間を懐かしく語る言葉。
 きっと、その話をしたら喜んでくれるだろう。
 買い求めてくれた人も嬉しそうで、作ってくれた人たちも嬉しそうで。
 だから媒介するレイも嬉しかった。
 人と人とが笑顔で繋がる。
 それがレイたちの目指した世界だ。
 小さいけれど、ほら、たしかに存在する。
 見渡すどの露店も繁盛し、誰もが楽しそうに道を行き交う。
 戦争のさなか、けれどこうやって前に進もうとする人たちがいる。


 そのとき、かすかな溜め息。
「……あの都にまで飛び火したらどうするんだよ……」
 後ろを歩いていたルックがうんざりしたように呟いた。
 ふたりはそれをきょとんとしたように振り返り、そうしてすぐ笑顔に戻る。
「えー、いいんじゃない?」
「面白そうだよね。僕は賛成」
「はぁ……シーナはともかくレイまで…」
 肩を落として首を振る様子に、シーナがいつも通り「オレはともかくって何だよ〜」と嬉しそうに突っかかっていった。
 対してルックはそれを大仰に振り払ってみせる。
 そう、レイだって嬉しかった。
 ここにルックがいてくれることが。
 品物が売り切れて、じゃあ街を見て回ろうということになったときに、帰るだろうかと思っていたルックが自分から一緒に行くと告げてきた。
 もちろん仮装はしてくれなくて、そのままの格好だったけれど。
 でも、それでも、そばにいてくれる。
 ……誰もが笑って過ごせる世界。
 誰もが嬉しいと感じられる世界。
 目指したのはそれだけれど、本当は何よりも、……こうして大切な人と共に在ることの出来る、それはレイ自身が欲しかったもの。
 小さくルックが息を吐いた。
「第一…グレッグミンスターまでお祭り騒ぎになっちゃったら、僕はどこにいればいいんだよ……」
「えー? そんなの」


「オレたちのそばにいればいいじゃん」


 明快な言葉。
 解決になっているようで、まったくなっていなくて、あまりにシーナらしい。
 でも、それはレイが言いたかった言葉と同じだ。
「なぁ、レイ?」
 だから求められた同意に、レイは間を置かず頷いた。
「僕もそう思うよ」
 ルックは呆れ顔。
 さらに肩をすくめて、
「別にそれはいいけど……この状況、結構おかしいよ。わかってる? 海賊ふたりに連れ回されて、僕は一体どこの捕虜だよ」
 そうこぼすけれど、楽しげなシーナは止まらない。
「よくある構図じゃんか。ひとさらい」
「別に僕攫われてないけど」
「そこから始まるロマンスだよ、な」
 ロマンス。
 人の話を聞いちゃいない台詞に、レイとルックがつぶやきでハモる。
「いやいやシーナ、それはないよ」
「うわ、レイ、いきなりルック側についちゃうわけ!?」
「……せめて冒険活劇にしてくれない」
「じゃあ、純愛冒険物語」
「「不純な奴が言う台詞か」」
「ふたりで同時に言わなくてもいいのに〜」


 周りが聞いていたら、十分奇妙なやりとり。
 でもたぶん、祭に浮かれる人々の耳には届かないし、誰も見ていない。
 だから小さくルックが笑った。
 つられて、レイも笑う。
 そうして3人で、忍び笑いを交わす。
 それはとても優しい時間。
 寒ささえ忘れてしまうほどの、大切で、大事で、いとおしい瞬間。
 きっと、誰にとっても。





 鮮やかな衣装で隠して、本当のココロの話をしよう。
 ハッピー・ハロウィン。
 きっと想いは君に届く。





Continued...?




<After Words>
前回のノベル更新が2006年2月14日。
………どういうことだよ!(おまえがどういうことだよ)
自分で驚いていいのか呆れていいのか正直わかりません(汗)。
間ではイラストに付くショートノベルや他ジャンル(日和)のノベルが
ないわけではありませんが、きちんとした形では本当に久しぶりです。
実は書いていないわけじゃないのですが……。

反省はともかく(いやもちろん反省することしきりなのですが)。
1年あいて、4回目のハロウィンです!!!
海賊なシーナとレイをお届けいたしましたがいかがだったでしょう!
もちろん例のカリブなパイレーツの影響なのは言うまでもございません。
海賊&手下もありかと思ったのですけども、やっぱ船長服でしょう!!
いろんなコスプレをさせるのが実はこっそり楽しみです(笑)vv
背景画像はブログのハロウィン用に作ったものを使い回し〜。
適当すぎですねぇ……。



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