〜アイドル宣言!〜

June 2nd, 2002

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 暗い部屋に、ぽつんと明かりが灯る。
 外はしとしとと静かな雨、濃淡のない灰一色の空だけがぼんやりと明るい。
 それが部屋の中央に無造作に置かれた燭台の明かりをいっそう暗く感じさせる。
 ろうそくが風に揺れて、じじ、と小さな音を立てる。
 その明かりにぼんやりと照らされた顔は、4つ。
 顔を突きつけるようにして燭台を囲んでいた。
 かしこまるようにして正座をしていた少年が、ちらりと正面にいる男の顔を見る。
「……それで…シュウさん。やっぱり……」
 どこか押さえた声。
 あたりの闇をはばかっているようだ。
 まるで、そばで誰かが聞き耳を立てているのを恐れているかのように。
 声をかけられた男は、無表情を変えない。
「ええ。冗談は抜きにして、そろそろ本気で対策を立てねばなりません」
 やっぱり、と肩を落とす少年。
 左隣にいた眼鏡の少女がやはり押し殺した声を出す。
「…対外費だけじゃないですよ。城の内装や施設に関しても要望がたくさん来てます。不満がこれ以上大きくならないうちに何とかしないと。…兄さん」
「そうだな。……しかしユウキ殿。わが軍には現在状況的に金策に最大限の力を注いでいるほどの余裕はありません」
「うん…それだけに力を入れてると、ハイランドに足元掬われるね…」
 右隣の少女は、呆気に取られたような感心したような声をあげた。
「うちって、そんなにお金やばかったんだ〜」
 慌てたのは少年だ。
「あっ。しーっ、しーっ!! ダメだよナナミ!!! それ言っちゃおしまいなんだからあ」
「大丈夫でしょ。誰も聞いてないもん」
「そういう問題じゃなくてぇ…」
 なんだかいつもの姉弟のやりとりになりかけたところで、眼鏡の少女が溜め息をついた。
「私たちがおおっぴらに動かない方法で、何とか金策が立てられればいいんだけど……」
 すると、姉の方がぽんと手を叩いた。
「あ。ねぇねぇアップルちゃん。私、ひとつ案があるんだけど、どうかなぁ?」





 その日、バイオスフィア城に立ち寄っていたレイは、のんびりと図書館で本を読んでいた。
 ルックは、相変わらず石板の前で何をするでもなく過ごしていた。
 シーナは、リィナとアイリに声をかけて丁重にお断りされていた。
 そこへ。
「ムッム〜♪」
 レイのもとへは赤の、ルックのもとへはピンクの、シーナのもとへは青のむささびが舞い降りた。
 どのむささびも、手には1通の書簡。
 それを受け取った3人は、その文面を眺めて首をかしげた。
「……え? 僕がなにをした…?」
 怪訝な顔をするレイ。
「なにこれ…面倒だね」
 あからさまに鬱陶しそうな顔をするルック。
「げっ。名指しっ!? あ、アレがバレたのかなぁ」
 青ざめるシーナ。
 そこにはぽつりとこう書かれていた。



 大至急大広間に集まってください。
 軍主と軍師より大切な話があります。
 ちなみに絶対命令です。
 来ないとなんかイヤなことになります。
    ばーい ユウキv



 どんな理由で呼ばれるのかが明記されていない、タチの悪い召集命令。
 別に軍主の絶対命令は気にならないが、どうしても最後の文が気になる。
 なんか…なんかイヤなことってなんだ。





 大広間のドアの前で、3人は鉢合わせした。
 手には同じ形に同じ色の書簡。
「……あれ。なに、ルックとシーナも呼ばれたの…?」
「………そうみたいだね」
「ってことはレイとルックも呼ばれたんだ?」
 それを確認しあって。
 再びイヤな予感に襲われる3人であった。
「ええと…どうする?」
 困り果てたような顔でレイがふたりに問う。
 シーナは観念した表情で、肩を落とす。
「しょうがねぇ。入るしかないんじゃない?」


 ぎいいいいいいい。
 普段は手入れされていて軋むはずもないドアが、今日に限ってはなぜか軋んだ。
 幽霊屋敷のドアを開けている気分だ。
「あの……呼ばれて来たんだけど…」
 おそるおそる、レイが中に声をかける。
「あーっ、来た! 3人とも一緒? ちょうどいいねっ。入って入って」
 とたん、ナナミの明るい声が飛んでくる。
 思わず3人は顔を見合わせた。
 軍主と軍師に呼ばれて来てみれば、これはどうやら主導権はナナミにある様子。
 さらにイヤな予感倍増である。
 大広間には、4人の姿があった。
 ナナミにシュウ、アップル、そしてユウキ。
 4人ともやけにすっきりした顔をしているのが気になる。
 試しにシーナがアップルに向けて手を振ってみると、どうしたことかにっこりと笑顔が返ってきた。
 シーナは舞い上がっていたようだが、普段のアップルの反応を知っているレイとルックは更なる不安を覚えた。
 と、そこへこほんと咳払い。
 全員の視線がシュウに集まった。
「…さて。関係者が集まったところで、作戦会議とまいりましょうか」
「さ…さくせ…」
 思わず絶句するレイ。
 シュウはどこ吹く風で、
「それでは皆さん、こちらへ」
 などと手招きをする。
 シュウが歩いていく、それは大広間の端っこだ。
 しかもそこには組み立て式のテーブルとパイプ椅子(?)、さらにはホワイトボード(!?)が置いてある。
「じゃあ皆さん、座ってくださーい」
 ユウキが明るく3人に席を勧める。
 もはや混乱のあまり反論すらできない3人は、言われるままの席に座った。
 レイと、ルックと、シーナが座る。
 その正面にユウキとナナミとアップルが座る。
 そして、ホワイトボードを背にシュウが立った。



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