アイドル宣言!
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「さっさとはじめましょうか。まずはイメージですが」
と、シュウ。
ナナミがさっと手を挙げた。
「そのまんまで大丈夫じゃないのかなぁ。変に作ることはないと思うけど」
「そうね。今のキャラのままで大丈夫じゃないかしら」
「流行だしね」
…イメージ?
キャラ?
「では、対象は」
「女の子!!! 絶対女の子受けするもん!」
「ちょっと年上の女性をターゲットにしたほうがいいと思います。…購買力の問題で」
「あ、うんうん、それそれ。で、あとはそっち系の男の子もターゲットに入れない?」
「……ナナミ、それ、マニアックすぎない?」
「いいのよ、今はそっちの方が受けるわよ」
…ターゲット?
……マニアック?
「じゃあそれで決まりだな。…問題は、名前だが」
「うーん……」
「流行で言えば、横文字ですね」
「でも猫も杓子も横文字の時代だと、かえって四字熟語とかのほうがカッコいいかもよ?」
「なるほど…」
「けど、流行のものってことは受け入れやすいっていうのもあるよね」
…名前?
「逆にコンセプト、キャッチフレーズから入る手もある」
「キャッチフレーズかぁ…『少年たちの甘美な誘惑』ってどう?」
「年上の女性受けはしそうだけど、万人受けは…どうかしら」
「最初からマニアを狙うのもたしかに手だよね。だけど、ほら、表向きは普通なんだけど、実はマニアの心をくすぐる…っていう方が、マニアの人たちって燃えるんじゃないかな」
「ユウキ、なかなか鋭いじゃない」
…キャッチフレーズ?
ちょっと待った……。
これは…?
「あ、あのっ!!!」
こらえきれず、レイがばっと立ち上がる。
作戦会議(らしいもの)をしていた4人が視線を移す。
「ええっと…あのさ、これ……一体何が始まろうとしてるわけ…?」
語尾が弱くなる。
ユウキはきょとんとシュウを見た。
「あれ? 僕説明してませんでした?」
「さあ。ユウキ殿が説明したものだとばかり思っておりましたが」
いや、聞いてません。
3人が心の中で同時に突っ込む。
するとユウキが満面の笑みで3人を振り返った。
「ええとですねえ。お三方には、」
次の言葉は重量級の砲弾。
「アイドルになってもらいますっv」
こっちん。
音が聞こえそうなほど見事に、3人が止まる。
が、そんなことはどうでもいいらしい。
ユウキとナナミはにこにこと顔を見合わせて、
「レイさんたちだったら絶対売れるもんねー」
「そうそう。世界牛耳れるよね」
などと勝手なことを言っている。
アップルまでもが笑顔で、
「これで金策もばっちりですよね。私たちも全面バックアップしますので、安心してアイドルになってください!」
言われた方はたまったものではない。
レイは混乱のあまり貧血を起こしかけたし、ルックは完全に思考を停止させたし、シーナはその言葉を理解できなかったし。
しかも、思い出が走馬灯のように頭の中を巡っている。
そこにシュウが追い討ちをかける。
「まあプライベートもプライバシーもあったものではなくなりますが。頑張っていただきたいと思います。つきましては、明日から歌のレッスンとダンスのレッスンを始めていただきます」
ようやく、レイが我に返った。
「ちょ…っ。待ってよ、そんなの聞いてない…っ」
ルックもがたんと勢いよく立ち上がる。
「そうだよっ。なんで僕がそんなことしなきゃなんないのさっ」
シーナも椅子を蹴って立ち上がる。
「プライベート、なしなわけ!!?? それって自由時間がないってこと!!??」
3人が3人シュウに詰め寄るが、シュウは相変わらず涼しい顔だ。
「落ち着いていただきたい。……聞いていらっしゃらないかもしれませんが、今申し上げました。これは軍のためですので、あしからず。自由時間はほぼ皆無になるかと思われますが。他に質問は?」
きっぱりと言い返されて、思わず言葉に詰まる。
というか、冷静に考えてみると、それは答えになっているんだろうか???
頭の中はたくさんの?マーク。
それがまずかった。
「では契約成立で。アップル、歌とダンスの指導担当に至急連絡を」
「はい」
アップルはにっこり笑うと、あっという間に大広間を出て行った。
「え…だからっ、ここ…っ。戦争中じゃないの!?」
レイが常識人なら当然であろう疑問を投げかける。
が、それはナナミがさらりと。
「え? だってレイさんはここに来ても本読んでるだけだし、ルックくんは石板の前で突っ立ってるだけだし、シーナさんも女の子に声かけてるだけでしょ? 3人とも暇そうだからいいじゃない」
暇……。
暇のひとことで済まされたかっ。
しかし、本を読みながら「僕って暇人かなぁ」と思っていたり、石板の前で「暇だな…」と思っていたりしたレイとルックに返す言葉はない。
シーナに到っては反論も何もない。
3人は、慌ててそれを拒否する言葉を探した。
が、こういうときに限って上手い言い訳は探せないわけで。
「あー…えぇっと、ほら、僕、家でグレミオが心配するし。あんまり家あけるわけにいかないかなーって」
「お、オレもさ、一応共和国大統領の息子じゃん? 第一修行中の身だからさー」
「僕も石板を守る仕事を言い付かってるんだ。石板が大切なものだってのはわかってるだろ?」
何とか搾り出した言い訳。
が、シュウはまたこほんと咳払いをした。
「それでは、こちらをどうぞ」
言うと、なにやら紙を取り出して、掲げた。
ファンクラブ会員番号1番 グレミオ
がつんっ。
レイが机に頭をぶつける。
「先ほど使者を出して聞きましたところ、涙ながらに大変喜んでおられたそうですよ。早速はっぴとうちわを作っていらっしゃるようです。ちなみに、ファンクラブの名称はあとで決めます。……続いて」
シーナとルックが逃げ腰になる。
やれ。 父より
力強い字。
思わずシーナはしゃがみこんだ。
「息子が人の役に立つのは父として嬉しい、とおっしゃっていた。聞いてるか?」
問われるが、既にシーナの意識は遠くなりかけている。
「では続いて」
「ぼっ…僕用事があるから、帰るよっ」
珍しいルックの焦った声。
が、ものともせずシュウはぴらりと1枚の紙を差し出した。
断りませんよね? あなたの師匠より…
眩暈がして、思わずレイにすがりつく。
「そういうわけです。まずは事務所を作らなければなりません」
「あ、はーい。大急ぎでセッティングするね!」