アイドル宣言!
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 ソファにローテーブル、事務机。
 ドアを開けるとキッチンにダイニングテーブルひと揃え。
 さらにそこにはドアが3つあって、おそるおそる確認すると、そこにはしっかり荷物が運び込まれていて、今まで住んでいた部屋とまるきり同じだ。
 それどころか、ちょっと立ち寄っただけのはずのレイの荷物まである。
「グっ、グレミオ〜〜〜〜〜……」
 思わずへたり込むレイだ。
 レイの私物があるということは、間違いなくグレミオが用意したはずだ。
 とすれば、先程シュウが見せた手紙、アレは本物だということで。
 その前にレイがその下にあったグレミオの直筆を見間違うはずもないのだが。
「……どーしよーかぁ……」
 シーナが間延びした声をあげた。
 自由時間がない、すなわちナンパに出る時間もないということですっかり落ち込んでいるようだ。
 レイはそれに力なく頷いてみせた。
 いや、それくらいしか反応が返せない。
 シーナがそうだ、と手を叩く。
「なあ、3人で逃げちゃおうぜ? 今なら間に合うって!」
「逃げる…?」
「そ! あんまり大事になると逃げ出せなくなるからさ」
「そうだね…それはありだよね…」
 夜逃げ、とか駆け落ち、とかいう言葉が脳裏をかすめたが、今は形式にこだわってる場合ではない。
 ああ、でも。
「けど…ユウキに頼まれちゃったもんなぁ…」
 あのあと、ユウキに「お願いします! 助けてください!」と涙を浮かべて訴えられ、思わずレイは頷いてしまったのだった。
 シーナは抗議の声をあげる。
「ええええええ? レイ〜っ、オレとユウキとどっちが大切なんだよー」
「って、バカ! 比べられる対象じゃないだろっ!?」
「だけど〜」
 …すると。
 そこに大きな溜め息がひとつ。
 レイとシーナがそちらを見ると、いつになく暗い表情でうつむくルックの姿があった。
「…ルック?」
「………無理だよ」
「え?」
「逃げるなんて不可能だ、って言ってるんだよ」
 青ざめているルックに、ふたりは首を傾げる。
 ルックはほんの少し目をあげた。
「そりゃあね。あの過保護男や厳しい親からは逃げようと思えば逃げられるだろうね。……でも、気付いてる? レイもシーナも、僕に宛てたあの手紙の主から、目をつけられちゃってるってことだよ……?」
「「あっ」」
 ハモって、絶句。
 そういえば。
 いつもいつも要所要所で現れて、運命を導く女性。
 それは光と共に現れて……。
 しかも、このルックを顎でこき使うのだから、その性格が窺えるというもので。
 もちろん瞬間移動してくるのだから、どこへ逃げようとも……。
「ふ…袋の中の鼠……」
「そう。しかも、窮鼠猫を噛むってワケにもいかない」
 ずーん、と重い空気。
 これはもしや、最後の望みも絶たれたということか…?


 ばたーん。
 廊下に通じるドアが元気よく開いた。
「やっほー。ナナミちゃん登場!」
 いつも以上に明るいナナミが勢いよく飛び込んできた。
「ナナミ……」
 声をかけようとすると、ナナミはちっちっちっ、と指を横に振る。
「いやぁねー。マネージャって呼んでくれなきゃv」
「「「は?」」」
「うーん、息も揃ってばっちりだね! あ、ええっとねえ、座って」
 勢いに押されて、3人はしぶしぶ手前の部屋のソファに座った。
 それを見てナナミは満足そうに頷く。
 レイがちらりとその顔を覗き込んだ。
「あの…さ。マネージャって?」
 するとナナミは、ああ、と言って笑う。
「だからね。私がアトリビュートのマネージャに正式採用されましたー」
「ちょっと待った…なにそれ、アトリ……」
「え、だから、3人のグループ名」
 いつの間に。
 3人の眩暈に、今度は寒気も加わった。
「一応ここが事務所ね。で、ファンの暴走を避けるために、奥の部屋で暮らしてもらうことになったから」
「……それは想像つきました」
「そう? で、事務所のスタッフは、マネージャの私でしょ。社長のシュウさんでしょ。経理と事務担当のアップルちゃんに、アルバイトのユウキと、あとは契約スタッフね」
 軍主がアルバイト?
「ああ、うん。ユウキは、リーダーもやらなきゃいけないから、兼任でね」
 それなら正軍師が社長やっていてもいいのか、と思うが、もはや突っ込む気力さえない。
 第一、こんな事務所を城の中に作ってしまう予算があるのだから、そんなに金策に困っているはずはない。
「それで、デビューは来月に決まったから!!! 頑張っていこうね!!」
 もう何を言ったらいいのやら。
 3人は、弱々しく頷いた。
「きっとすごいよー。デビューの話が噂になったら、すぐにファンつくからね。女の子にもてもてだよぉ」
「えっ!?」
 するととたんにシーナの目が生き生きとする。
 レイとルックは深い深い溜め息をついた。
 既に逃げ場はどこにもないようだ。


「…僕たち…つまりあれ? この軍に売られたってワケ?」
「というか…誰かの趣味じゃないのかな…。そんな気がするよ……」
「……誰か助けてくれないかな……」
「あはは……ねぇ…」





 ちなみに。
 デビュー曲『トライアングル・ウォーズ』は、オリコン初登場1位を記録したそうな。
 その裏で左団扇の連中がいたことは、言うまでもない。
 どっとはらい。





Continued...?




<After Words>
あっははははは。た〜のしい〜♪
なんでお約束っていうのはこんなに楽しいんでしょうねv
すいません、所要時間3時間強でした。珍しく早いです。
だって、朝仕事場に行くときに「あ…書きたい…」と思い、
仕事場で書き出し、午前中の終業時間中に書きあがってしまいました。
つうか、バイオスフィア城のみなさん、すっげぇ強引(笑)。
本当は「脱★アイドル宣言!」ってタイトルだったんですよ。
「脱」じゃないじゃん!って突っ込んでいただきたくて。
でも妹。に「世の中があんたみたいなツッコミばかりだと思ったら大間違いだよ…」と言われまして。
仕方なく短くいたしました。
もとはといえばこのネタ、有名な「いきなり!次回予告」で遊んでいて、
  ピチピチキュートなレイ・ルック・シーナが来月待望デビュー!
  デビューシングル「魔のトライアングル」を引っさげたツアーも決定。
  レイルックシーナが間もなくあなたのおそばに参ります♪
ってネタに行き当たってしまったのが運のツキでした(前にひとりごとにも書いたんですが)。
次回予告ネタは…まだもうちょっとあったりする(笑)。
まだまだやりますよ〜、お約束ネタvv
…うーん、このアイドル話は…続けるかどうか決めてません。
もし続きが読みたい方がいらっしゃれば……(っていないだろ)。
……しかし…レイ、ちょっと問題発言してませんか…?



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