アトリ
=嵐のデビュウ=
− 3 −

「え、えっと、ですから……」
「ねぇねぇアンネリーちゃん〜。そんなことよりオレと遊びに行かない?」
「ええぇっ!?」
「…っ、そこのナンパ野郎!! うちのアンネリーにっ!!」
「あーらヤダお兄さんヤキモチ〜? 男の嫉妬ってヤダねー」
「だっ、誰がだっ!」
「第一オレの性癖についてご意見あるみたいだけど? 似たようなもんなんじゃないの、あんたも」
「何を!」
 はあぁ。
 レイとルックは溜め息をつく。
 歌のレッスン、ということでスタジオとやらいう部屋に連れて来られた。
 ひとりひとりでは連れ出されていたが、3人で入るのは初めてだ。
 そこではアンネリーがボイスレッスンを、ピコとアルバートがバックバンドを担当して練習に付き合ってくれている。
 …おそらく彼らも何かしらの見返りでもって懐柔されているのだろうが。
 大体そのメンバーに時々コーネルが加わる形で練習をしてきた。
 だから3人は他のふたりがどんな練習をしてきたか、人伝えと本人の言でしか知らなかったのだが……。
「…読めたね。あのバカ、いっつもこんな馬鹿騒ぎしながら練習してたわけか」
「だからあいつ、いつも練習長かったのかな」
「さぁね」
「どっちにしたって…なんであいつ、あんなにこうなんだろうね…。ドレがナニとはいわないけどさ……」
「その方が賢明じゃない。いつもよりイラついてるみたいだけど」
「みたいだね」
 こんなことではいつまでたっても終わらない。
 まさかシーナも発声練習を兼ねて騒いでるわけではないだろうし。
 仕方なく、レイが口を開く。
「それで? 今日はどんなスケジュールで練習に入るの?」
 するとピコとシーナの間でおろおろしていたアンネリーがぱっと顔をあげた。
「あっ、一応個人の練習はできているので、合わせるところから……」
「わかった。…ほら、シーナ。アンネリーが困ってるだろ」
「ちぇー……! …ってぇ」
 つまらなそうにするシーナの頭を、うしろからルックが小突く。
 レイとルックの連携プレーだ。
 すると嬉しそうにうしろからついてくるが、なんとなく頭に来たので無視をすることにした。


「はいっ、じゃ行きまーす」
 短いカウント。
 そのあとで、イントロが入る。
 まずはレイ、次にルック、そしてシーナのソロがあって、そこから合同パートになる。
 合わせたことがないから、一体どうなってしまうのか皆目見当がつかない。
 それをデビュー直前のこの時期に初めてやろうというのだから、いったいナナミたちは何を考えているのだろう。
 それに、お互いの歌を聴いたことがない。
(……これ……。ちょっと照れるなぁ……)
 初めにソロのあるレイは、そうひとりごちて頭を掻いた。
 そうして……。
(! へぇ…、レイ、上手いや…。すっごい素直な声。性格出るんだなぁ)
(ふぅん。もしかして、どこかでこれ、聞かれてたんじゃないの。それで目をつけられたんだったりね)
 そして、ルック。
(うっわ!! いい、いい!! 可愛いんだけどそれだけじゃなくて…)
(綺麗だなぁ…。あぁ、声が優しいんだ。た、たしかにこれは売れる、って言われちゃうと否定できない…?)
 ソロパートが終わって、レイとルックは息をつく。
 どうやら自分で意識はしていなかったが、相当緊張していたらしい。
 そういえば自分たちは初心者であるのだし、本当に無茶なスケジュールだ。
 今更どうしたらあのとき逃げられたんだろうと考えても仕方ないことが浮かんでくる。
 それを考えてしまうとよけいに気分が滅入るので、無理矢理それを頭から追い払う。
 …と。
 そこで、シーナのソロ。
(!!! えっ?)
(な………これ……)
 思わずふたりは目を見合わせる。
 呆然と視線を交わすが、言葉にならない。
 が、すぐにソロパートが終わる。
 はっと我に返って、レイとルックは譜面に目を落とした。
 何拍か置いて。
 3人のパート。
 初めて声を合わせた。
(!!)
(…わあ…)
(……!)
 別に打ち合わせをしたわけじゃないし。
 ただ楽譜どおりに歌ってるだけで。
 なのに。


 最初のサビのあとで、アンネリーが曲を止めた。
「はい、ありがとうございます。みなさん、すごいですね……って、えええっ!? あ、あの、レイさんっ!? ルックさんも……ど、どうしたんですか?」
 そこには、床にへたりと座り込むレイとルックの姿。
 曲がやんだあと、崩れ落ちるように座り込んでしまったのだ。
 シーナも驚いて、
「ちょ…っ。レイ!? ルック!? 大丈夫!?」
 とふたりに駆け寄る。
「あ…? う、うん。平気。ちょっと…いや、うん、なんでもない」
「うん。大丈夫……少し眩暈がしただけだよ」
「あ、僕も、それ……」
「そう……? それならいいんだけど…。大丈夫なんだね?」
「うん………」
 呆けたように頷くふたりに、やはりシーナは心配顔。
 レイがそれに何とか笑顔を見せると、ようやく少し安心したようだ。
 だが…だがしかし。


 シーナが声をかけられて楽団の方に歩いていった隙に、レイが床に膝をついたままそっとルックに近付いた。
「…ルックー……平気?」
「ダメ…かも。何、あれ……。腰立たない……」
「ん…。だよね……。まさかあいつ…あんなに上手かったなんて」
「そばで聞いてて、倒れそうになった」
「トリオパート、ほんとに鳥肌立ったもん…」
「……たしかに…なんか、妙に声が合ったって感じで……さ」
 ちらり、とふたりはシーナの後ろ姿に目をやる。
 そうして、さらに小さな声で。
「絶対。これはシーナには黙っとこうね」
「当然だろ。絶対絶対いやだ」
「これで僕たち続けてくのかと思うと……目眩はするけど…」
「……言うなよ、レイ……」


 部屋の外で盗み聞きをしていたシュウが、不敵な笑いを浮かべてそろばんを弾いたのは誰も知るよしもなかった。





Continued...?




<After Words>
やってしまいました。トライアイドル化続編。
わたしひとりが楽しいってあたりがもう…(笑)。
ええ、レイとルックが受けた衝撃は、
『ヘンリー役の方と初めて台本あわせしたときのわたしといの。さん』
状態ですね。
って、わたしといの。さんしかわからない(笑)。
しかもいの。さんが覚えてるとも限らないっていうんですからわたしってやつは。
そしてまた自分設定ですねー。上手いんですよ。そりゃもう。
あのレイとルックをこんなふうにしちゃうんですから、もしかしたら一番の武器かも。
でもシーナ本人には自覚持って欲しくないなぁ。
で、どきどきしてるのはふたりだけ…って。
ってさぁ……ちょっと間違えればヤバイ話みたいですよねぇ……。
続き…は、ちょびっと、書こうかなぁ…なんて思ってみたり。



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