September 24th, 2005
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Part.1 At tri...
「え? 今…なんて?」
思わずレイは聞き返した。
両隣のルックとシーナも耳を疑っているようで、呆気にとられてナナミを見る。
対して、にこにこと笑顔のナナミ。
どうやらとことんまっすぐに突き進むタイプで、その笑顔に裏がないのはいい加減理解した。
しかし、裏がない故にストレートにショックなことを言ってくれるから心臓に悪くはあるが。
そのナナミが突然言い出したことに対して、3人は反応に困っているところだ。
それは雑誌のインタビューを終え、ようやっと事務所に戻ってきたときのことだ。
後処理があるというマネージャのナナミを残して一足先に戻った3人は、そのまま部屋に戻ろうとしたところをユウキに呼び止められた。
「あ…すみません、そういえばナナミが、あとで話があるって言ってましたよ」
読んでいた雑誌を膝の上に置いただけ、目の前のテーブルにはコーヒーカップ、そこからは暖かそうな湯気がたっている。
完全にリラックスモードだ。
そういえばこの軍主、最近仕事をしている場面に出くわさないな、と思ったがあえて口にしなかった。
気付かなかったことにして、レイは首を傾げる。
「話? さっきまで一緒にいたんだけどな」
「戻ったらここで話すって言ってましたから」
表の人…すなわち関係者以外には聞かせられないような話か?
だとしたら嫌な話に違いない。
しかし、そう呼び止められていながら素通りしてしまうのもよろしくない。
仕方なく部屋に向かいかけた足を止め、事務所に残ることにした。
とはいってもさっさと戻って休む予定だったから事務所ですることは特にない。
机に積まれたファンレターも今読んでは倒れそうだったから、ソファに座って3人でなんでもない話をして過ごす。
後処理といってもそう長い時間はかからないだろうし。
やがて、その予想通り、いくらも待たないうちにナナミが戻ってきた。
「あ、まだいてくれたんだー。よかった。ありがと、ユウキ」
元気の有り余った勢いで駆け込んできたせいで、上気した頬。
だが息は乱していない。
大したものだと思う。
ナナミはにこっと笑い、3人が座ったソファに向かい合うようにして座った。
「朗報だよー。来週の予定が色々ずれてね。ちょっと長めのお休みができたんだよ」
そこで、冒頭のレイのセリフに戻るわけだ。
なにせ、組まれたスケジュールは分刻み秒刻み。
それはつまりスケジュール帳が真っ黒だということで……。
休みなんて、奇跡のような幸運が重なったときに1日くらいできれば万々歳。
そんな状態だから、レイの「え? 今なんて」は当然の反応なのだ。
「うん、だから長めのお休み。ゆっくり休んで、また頑張ってもらわなきゃいけないしね」
たとえばそれが永遠の休暇で実は解雇通告なのでした、というオチではないかと淡い期待を抱いていたレイは心の中で肩を落とす。
まあ、人気がとどまるところを知らない3人を彼らが手放すはずがないのはわかってはいた。
わかっていてももしかしたら、と思ってしまうのが人間だ。
別に解雇でもいいんだけど…とさらに未練を含ませた溜め息が、果たして彼女に伝わったかどうか。
とりあえず「また頑張って……」のくだりは聞き流すことにしておこう。
が、ナナミの話はそこで終わったわけではなかった。
さらに突然。
「時々、事務所の方に連絡が入るの。たしかに心配なことっていっぱいあると思うしね。だから、たまには帰って安心してもらった方がいいと思ったのもあるんだ」
「は? ……えっと…何が?」
「だから、保護者の皆さんからね」
「!?」
この話、筋道が通っているのかいないのか。
とにかくそう決まったらしい。
つまり今回の休暇とは、里帰りしておいで、ということのようだ。
たしかに時々は会わないときっと大騒ぎになるんだろうな…と己の付き人を思い出したレイには特に異論はない。
振り向くと、表情のないルックと、どこか戸惑ったような顔のシーナが頷いた。