〜閉ざされた楽園〜

June 2nd, 2000

★ ★ ★







「長いな…」
「あぁ…」
 2人は、どこにいるのだろう?
 時は青い色。
 しんしんと冴え渡る不透明な青。
 覆うように、息をひそめるように、折り重なった色。
 その澱むような色の奥底深く、その時間はあった。
 2人の見つめるその先には、変わらない景色がある。
 ひとつは、フローリングの床。
 冷たいそれに腰を降ろして。
 開け放した窓。
 その向こうに見える高層ビルの群れ。
 もうひとつは、砂の地面。
 冷たいそれに腰を降ろして。
 何もないさえぎるもの。
 その向こうに見える金色の砂漠。
 ひとりはビルを眺め、もうひとりは砂漠を見ている。
 ふたつは違うはずの景色。
 けれど、同じ景色。
 夜の中心。


「…もう、どのくらい待ったかな」
「さぁね。数えてないから」
「わかるだろ? 時間くらいはさ」
「さぁ」
 そうして2人は、同時に上を見上げる。
 欠けているように満ちているように黄金(こがね)色の大きな月がたたずんで。
「午前13時…ってところかな」
「そんなものじゃないか」
 いつまで待っても、夜明けは訪れようとしない。
 終わらない夜。
 2人は背中をあわせて座って…それしかできないように膝を抱えて景色を眺めていた。
 眠ることさえ許されずに。
 ただ、闇よりも濃い影が、時々居眠りをしているようだけれども。





 会話が途切れてしばらく経つ。
 仕方のないことだ、もう話すことなど尽きてしまった。
 変わらない景色の中で、一見新しそうなものを見つけることがあった。
 はじめのうちは、それを面白がって話していたけれど。
 それが実は新しくなんてないことに気付いてからは、話題にのぼることもない。
 結局、それは全部同じものだったから。
「喉が、カラカラだよ」
「仕様がないだろ。動けないんだし」
 気のない、的の外れた答えが返る。
 しかし問う方も、あまり真剣に言ったわけでもなさそうだ。
 一秒の長ささえわからない。
 今、過ぎたのは一秒だったろうか?
 それとも、一時間だったろうか?
 時間の感覚は狂ってしまった。
 いや、時間そのものが狂ってしまったのか?


「それにしても…乾いたところだよな…」
「あぁ。だな」
「よくこんなところで生きてられるヤツらがいるよなぁ」
「全くだ。信じられない気もするが…」
 遠いなあ…潤いなんて見えやしない。
 歌なんて忘れてしまった。
 帰ろうとする場所も忘れてしまった。
 ましてや、ここがどこかなんてこと、覚えているはずもない。
「…不思議だな」
「何が?」
「“夢”ってやつがさ」
「“夢”?」
「あぁ。こんなに乾ききってるのにさ。ほら。“夢”だけは輝いてる」
「…なるほどね。あんなに多く…健気なもんだ」
 2人は、その“夢”の輝きに魅入る。
 永遠には続かない、いつかは消えてしまうであろう光に。





 暗い景色に、どこかで風が吹く。
 ふと、片方が呟いた。
「どっちかが死ねば、ここから抜けられるのかな…」
「…え?」
「だから…例えば殺し合ったりしたら…」
 少しの間の、沈黙。
「……さぁな」
 ふいに景色が滲んだように揺らいだ。
 2人の目が細められる。
「何か…探してた気がするけど……」
「…………」
 声が、心なしか小さくなった気がする。
「戻れるのかな…いつか」
「…さぁ、な……」
 ザーーーーー……ッ。
 雑音が殴り込んでくる。
 これは風の音?
 ノイズ?
 それとも……?





End




<After Words>
古いお話のリメイクです。95年11月8日初書き、と書いてありました。
そんな古いものだったんですね。この95年11月前後にこんなようなショートストーリーを
書いていたんですが、その中でもこれはけっこう気に入ってる話です。
なんでこんな場所にいるのかとか、結局どうなったのかとか、色々考えてはあるんですけど、
あえて書きませんでした。んー…。抽象的なお話ではありますね。
   → Inspired by Zabadak「水のソルティレージュ」



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