たしかな偶然
<前編>
− 2 −
今は……か。
もちろんその後もそいつを忘れたことはなかった…って言えればカッコいいんだけどさ。
何か月かしたらすっかり忘れてたよ。
なんか、どっかで印象に残ってた気はするんだけど。
で、オレはその後「見聞を広げる」って名目で家を飛び出したわけだね。
部屋に閉じ籠もってらんなくて落ち着きなく外へ飛び出してくのは相変わらずガキの頃と同じだ。
もちろん、オレ、今だって年齢的には思いっきりガキなんだよ。
精神的にもガキかもな、って自分でも思うし。
冒険が好きで好奇心いっぱいなだけで、全然大人なんかじゃないぜ?
あー…そりゃ子供だったら女の子引っかけたりとかしないのかな。
ケドまぁ、それは趣味ってことで。
しょうがないじゃんか。
にしたってさ、かなりの子に声かけてるけど……不思議なもんだよなぁ…。
数打ちゃ当たる、ってわけでもないんだよ。
いくら数打ったって、これだーって思える子はいない。
声かけてる時はそう思うようにしてるだけで。
でもさ、ナンパなんてゲームみたいなもんじゃん?
声をかけるのとかけられるのと、駆け引きを楽しむだけの話だろ?
それで引っかかったらラッキー、くらいのもんで。
だから、本気でそばにいたいとか…思えないんだよな。
オレって、どっかおかしいのかな。
それは、またもや突然の出来事。
「あの……」
戸惑ったようにかけられた声に、オレは最初気がつかなかった。
ろくにその顔も見ずに邪険に振り払って、目の前の女の子落とすのに没頭してた。
でもそこにいきなり
「シーナ!」
だろ?
げげっ、親父、なんでここに!!!!!
そりゃもう昼間墓地の横を歩いてたら急に墓石の後ろから幽霊が飛び出したんじゃないかってくらいに驚いたね、オレは。
あ、思ってもみないときに思ってもみないことが、って意味でさ。
それでオレは慌てて振り返って、そうしたら親父の顔があって……その後ろで。
困ったような、どう対処したらいいのかわからないような、……その顔。
記憶の中にあった笑顔と、それが何故かだぶった。
一瞬にしてあの時のことが鮮やかに甦って。
親父の説教なんか、半分も耳に入ってなかった。
一応親父に謝って、それからさも今気がついた感じに装って、オレはそいつを見た。
「……あんた…誰? 名前は?」
「えっ?」
「シーナっ、おまえはいきなり失礼な……っ」
うん、わかってる。
でも、ずっと……聞こうと思ってたんだ。
「えっと…僕は、レイ。解放軍の、リーダーを務めています」
「レイ……」
初めて聞いた、懐かしい名前。
オレはもう一度、口の中でその名前を繰り返した。
レイはオレのこと、覚えてないみたいだ。
まあ当然かな。
オレが5歳か6歳なら、レイは7、8歳だもんな。
あの頃よりずっと大人びた顔(当然なんだけど)、それがちょっと寂しくもあったけど。
わかってるよ、それって仕方ないことなんだってさ。
レイがここに来るまでの間何があったのか、少しは聞いてわかってるつもりだったし。
でもそれにしたって、あの頃のレイとは随分ギャップがあった。
突然『解放軍のリーダー』に祭りあげられて、途方に暮れたようにしながら、それでも迷わずに歩き続けていこうとする姿……それにはすごいなって思った、だけど。
ぬぐいきれない違和感がある。
それは多分オレだけじゃなくて、誰よりもレイ自身が感じてるように見えた。
そして、オレはその正体に何となく気がついてたけど、当のレイはそれが見えてないみたいでさ。
うん、『リーダー様』には言っちゃマズいんだろうな、ってのはオレもわかってた。
独り立ちして、大きな戦いに向け歩き出した『リーダー様』に、それって無益どころか害になるんじゃってこともだいたいね。
それでも、オレは言ってやったんだ。
だってオレは、『リーダー様』より『レイ』が大事だったからさ。
あぁ、そう。
その時からオレはレイのことがとても大切だったんだ。
いや、もしかすると出会ったあの時から、なのかな。
「本当は単なる子供なのに、まわりの期待で『大人』してるだけだろ。なぁ、レイ?」
……驚いた顔してた。
そんなこと、思い至らなかったって顔で。
でもそうなんだよ。
レイはあの無邪気でまっすぐな子供の、あの本質を失ったわけじゃないと思うんだ。
だってレイの瞳は、あの頃のままだったしな。
無理矢理大人の顔をしてるだけなんだ。
そんな無理してたら、いつか壊れちまう。
そんなの…いやだからさ。
Continued...