Happy Halloween Second Season
Side : B
− 3 −
やっぱり、目立つなぁ……僕。
目立ちたいわけじゃないんだけど。
一応解放軍リーダーなぞやっちゃってたからねー……。
そのネームバリューはやはり侮れなかったってことか。
最初はただシーナと喋ってただけなんだけど、気付くとあっという間に囲まれた。
メグが目をしばたたかせながら、
「ふーん、こういうキャラだったんだー」
って、何か引っかかるんだけどな、その言い方。
僕は別にキャラクター商売してるわけじゃないんだけどなー。
「わー、すっごい可愛い〜〜!!」
そう言いながら駆け寄ってきた黄色いドレスの女の子……テンガアール?
「魔法使いだね。大きい帽子が可愛い!」
「ありがとう。テンガのドレスも似合ってるよ。…それで? ナイト様はどこに?」
「あ、うん。そこに……ってあれ? ヒックス? なんでそんなとこにいるの? 早くおいでよ」
「そうそう、早く来ないとナイトシーナくんがお嬢様奪っちゃうよ〜」
「大丈夫、こっちから願い下げだもん」
「つれないねぇv」
今ひとつ煮え切らないふたりだけど、そんなところもらしいよね。
おずおずと帷子姿のヒックスがテンガのそばにやってくる。
ヒックスも内気だもんね、大変な行事だなあ。
と、今度は見たこともない衣装の…テンプルトンか。
なんだかすごい不思議な光景。
よく見知った人たちなのに。
「わざわざその格好しにバイオスフィアまで来たんだ」
うーん……。
そう言われちゃうとなぁ……。
「別に、仮装しに来たわけじゃないんだけどね。連れてこられたら、衣装までオプションでついてきたって感じかな」
「ははぁ…。その後ろにいるのの策略に乗っちゃったんだ」
策略ってほどの策略じゃなかったけどね。
本当の策略は相手に真意を悟らせちゃマズいはずだけど、シーナの場合バレバレだったから。
でも、結果僕がここにこうしているってことはその策略は成功しちゃってるってこと?
すると、テンプルトンは声の音量を落として「ちょっと」と手招きをする。
なんだろうと思って顔を寄せる……と。
「やっぱりシーナと深い関係なわけ?」
!?
「ふっ…深い!? それってどういう意味だよっ」
「こういうパーティにさりげなく同じ格好で現れればそんなふうに見られても無理ないと思うけどな。どういう意味、もなにもそのままだけど。おふたりお付き合いされて長いんですかって」
「つっ、付き合ってないってば!! そんな証拠も事実もないんだからさ」
「でもシーナって女の子相手でもそこまでべたべたはしないんだよね。男なら尚更さ。ところが、レイやルックにはよく触ってるんだよな。注意深く見てると」
…………。
「そんなことないって。気のせいだよ」
「そうかなあ」
シーナめ……。
のんきに白いふわふわのドレスを着たアンネリー嬢と喋ってるけど。
あとで見てろよ…っ。
なんかもう、今すぐそのだらけた顔に一発食らわしてやりたい。
でもこの流れでそれやったら間違いなくテンプルトンの誤解が深くなるだけだしっ。
なんてことを考えてたせいで、僕は背後から勢いよくやってくる気配に、直前まで気付かなかった。
「レイさんっっっっ!!!!!」
「うっわ!!」
弾かれるように後ろから抱きつかれて、バランスが崩れる。
とっさにテンプルトンの腕につかまって事なきを得たけど。
「あ、ごめん」
「いや…こっちからは後ろから突進してくる影見えてたから大丈夫」
だったら教えてくれてもなぁ……。
後方から猛突進してきたのは、振り返るまでもない。
「…どうしたの、主催者。さっきまでみんなに囲まれてたじゃないか」
「レイさんがいたのを見つけたので、振り払ってきました」
「遠かったのによく僕に気付いたね」
「もちろんですっ」
同盟軍リーダーユウキといえば、このあたりで知らない者はいないほどの有名人だ。
もちろん、その勇名を馳せているという意味で。
でも、イベント主催者の一面も持つ。
バラエティに富んだ城だよな…。
「本当は今年もお迎えに行きたかったんです! でもタイミングが合わなくて」
というより、裏でシーナとルックが妨害してたんだけどね。
「レイさんも仮装してくださってるんですね。一緒に楽しめるなんて嬉しいです!」
これもシーナの策略なんだけど。
「ちょっと普通のパーティと違うので、趣向と異なっちゃうかなとも思ってたんですよ」
たしかにね。
普通に招待されて出るパーティならまだしも、積極的に参加してます、みたいなふうにはいつもはしないことが多いし。
シーナが引っ張ってきたんじゃなきゃここにはいなかっただろうな。
「あああっ。おいっ、ユウキ!」
「レイさ〜んっ」
「ちょっと聞けってユウキ! いや、その前には・な・れ・ろっ」
……シーナ?
突然こっちに戻ってきたかと思うと、シーナは僕の背中にひっついたユウキを剥がしにかかる。
痛いってば……。
何してるんだか。
ユウキが離れたと思ったら、間にシーナが割り込んで僕を背中でかばうようにする。
「なんでですかっ。せっかくの再会を邪魔しないでくださいよー」
「せっかくも何も、レイはオレの招待で来たんだよ」
「え!? 僕は聞いてませんよ!?」
「言ってないし。いちいち報告する義務でもあるわけ? オレと、レイは、深い仲なんだからな」
……だから。
そういうこと言うなって。
ほら、テンプルトンの視線が冷たい。
僕は無言で否定するけど、絶対納得してないよな。
「なんなんですか、それっ!」
ユウキがくってかかる……僕もそう思うよ。
「えー? だってほら? 仮装だってペアだし」
「!」
あああ、もう……。
なんで僕が喧嘩の種になってるんだよ。
っとにシーナって困った奴……。
「ユウキ…。嬉しいけど、あっちでユウキのこと待ってる人たちがいるよ。僕はまだ帰らないから。また、あとでゆっくり話そう」
切り出すと、ユウキは少し残念そうにする。
でも、向こうで軍のお偉いさんたちや出資者の皆さんがちらちらとこっちを窺ってる。
長くここに引き留めておいてはユウキにとってもよくないだろうからね。
「……わかりました。また、あとで」
最後を強調して、ユウキは名残惜しそうに去っていく。
そして僕のそばには、勝ち誇ったようなシーナと訳知り顔のテンプルトン。
…だからっ。
「ふーん。あんたたちってやっぱ深い仲なんだ?」
「え? そりゃもう」
そしておまえもそこ肯定すんなっ。
ダメだこれ以上ここにいると何言われるかわからない。
「あー、えっと、これって会場ここに限ってないんだよね。城中でやってるんだっけ? ちょっと色々見て回りたいな。それじゃ、またね、テンプルトン。……ほらっ、行くよ、シーナっ!」
「オッケー。どこでもお供致しましょv」
………僕……墓穴掘った?
活気のあふれる城。
廊下も広間も商店街も修練場も、ありとあらゆる場所が飾り立てられている。
これ、去年より力入ってるなあ。
おそらく去年でこのイベントの楽しみ方を知ったんだろうな。
図書館の裏手、人のほとんどいない小径を歩く。
すると茂みの手前に所々大きなカボチャがいくつか置かれてる。
ここまでするのか…。
塔のあたりにも垂れ幕がかかってて……。
あっ…大きなコウモリが5匹空を飛んだ?
と思ってよく見ると、黒いマントに身を包んだむささびじゃないか。
すごいな、彼らも参加してるんだ。
でもぱっと見、全員黒いマントだと誰が誰だかわからない。
逆にそれが面白い。
「…あのさ、レイ?」
「んー? なに?」
さっきから黙ってたシーナがぽつんと切り出す。
「やっぱ、こういうノリって苦手だよな? レイの迷惑とか、考えないでオレ……」
ああ、そんなことを考えてたわけ?
珍しくしつこく悩んでたんだ。
たしかに途中僕の意見は反映されることもなく事は進んだけどね。
というか意見を考える隙もなかったんだけど。
「いつまでそんなこと気にしてるんだよ。別に、僕は迷惑とか思ってないけど?」
「本当?」
「嘘ついてどうするんだよ。今更おまえに『迷惑じゃありませんよ』なんて笑顔でいい子装ったってしょうがないだろ。こう見えても結構楽しんでるんだけど?」
「えー、でも会場抜けてるじゃん」
「せっかくだからあちこち見てみたかったし。それに、普段しないような格好でうろうろするのって楽しいね」
ちょっとだけその気になっちゃうんだよね。
僕は高名な魔法使いの弟子なのか…みたいなさ。
隣を歩いてるのも特殊な服だからね。
新鮮で、楽しいんだけどな。
「僕はシーナといるからそれで十分なんだけど。大勢のパーティの方がいい?」
「!」
そりゃ、いろんな人のいろんな格好も面白いし、見てて飽きない。
だけどふたりでいるのは嫌じゃない。
「いいんじゃない? 平和な冒険って感じで。ねぇ、『兄さん』?」
笑いかけると、シーナは呆然と僕を見る。
「……あぁもう、レイって、なんつーか……っ」
「わっ!」
な!?
突然抱きしめてくる……そう来るとは思わなかったからびっくりした。
「いきなりなんだよ」
「なんかちょっと感動しちゃったよシーナくん」
痛い痛いっ。
腕に力入ってるんだけど。
困った奴…。
「レイ〜っ!! 好きだよー」
「はい、はい」
背中をぽんぽん叩いてやる。
兄弟子っていうより、手のかかる子供だよね。