〜 Happy Halloween Fourth Season 〜
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バイオスフィア城のハロウィンは一大イベントだ。
最初は装飾も控えめで、一部のメンバーが仮装をしている程度だった。
それが回を重ねるうちに飾り付けは徹底的になり、仮装はパレードでもできるくらいの人数になった。
イベントはイベントとして精一杯楽しむ姿勢はたしかに立派なものだ。
毎年趣向を凝らすため、実行委員は常に頭を抱えているという。
「それで、今回は何がテーマなの」
ケーキを呑み込み、レイが問う。
「ニナちゃんが提案したのが通ったらしいぜ。『おまつり』だってさ」
スプーンの生クリームを舐めながら、シーナ。
「楽しめることなら基本的になんでもいい、がモットーだって聞いた」
顔中で「面倒」と呟いているようなルック。
レイは首をひねる。
「楽しめることならなんでもよくて……おまつり、か」
「結構みんないろんなこと考えてるみたいだな。芝居やるヤツとか、コンサート開く連中とか。ステージは何時から何時までが誰ってもうスケジュール決まってるらしいしさ。あとは、部屋なり屋外なり、場所を実行委員会が仕切ってて、こっちから申請して貸してもらう、と」
「それは随分本格的だなぁ」
「……おかげで僕がいつもいる広間は細切れで、いるところがないんだよ」
ぼそりとルックがこぼす。
溜め息混じり、というよりも、溜め息のついでにしゃべっているように見える。
変に納得してレイは頷いた。
それはたしかに、ルックが嫌がりそうな光景だ。
ルックはたくさんの人間がウロウロしている場所を好まない。
だから石板が広間にあること自体あまり納得していないらしいのだが、今回はそれに加えて、その場所を借りた人々がその視界に入る。
辟易するのももっともだ。
「あー、でも、そのおかげでルックも一緒に来られてオレはラッキーって言うか…」
「そこ、うるさい」
「は。失礼しました」
机に頭がつくのではないかというほど深々と頭を下げるシーナ。
完全な力関係がありありと見えて、なんだかおかしい。
くすくすと笑いながら、レイは首を傾げた。
「で? 今のところどうする予定?」
そう聞いたのは、いつのまにかレイもその中に巻き込まれるようになっていたからだ。
最初はただギャラリーとして招かれただけだったはずが。
だから、どうせ今年もなにか企んでるんだろ、という意味合いを込めての問い。
横目でシーナを睨んでいたルックが目を上げる。
そうだな、と唇で小さく呟く。
「やっぱりね、僕は派手なことはしたくないんだ。たとえば、舞台に上がるとか…部屋ひとつ使って何かするとか…そういうのは嫌だと思ってる」
ずっと頭を下げていたシーナが、上目遣いでレイを見る。
「ルックがそう言うもんだから…。一応ね、オレの名前で図書館横のテントスペースひとつ借りてあるんだ。何もしない気はないし、かといって、ルックが嫌がるのを無理に進める気もないし。簡単な店くらいならできそうかなって思うんだよなー。たとえばどっかから珍しいモノ集めてきてさ」
ふぅん、とレイは頷く。
時間…は、ある。
ここなら手もある。
せっかくだし。
「ねぇ、じゃあ、お菓子でも売る?」
「お菓子?」
「そう。今から作ればそれなりに量もできるよ。うちで作ればいいし、グレミオも手伝ってくれるし」
「……なるほどね。たとえば手作りだったとしても、僕たちが主導じゃないって強調すればそんな目立たないか…」
ぽつんとルックがこぼした。
主導じゃない?
一体どういうことかと目で問うと、ルックはわずかに拗ねた顔をした。
「だから、僕は、そういうことができるっておおっぴらに思われたくないんだよ。レイとシーナのことは手伝ってもいいけど、表向き僕は無関係を装わせてもらってもいい…んだよね?」
ああ、そうか。
ルックは自分におさんどんのイメージが付くのを相当嫌がっているようだ。
もちろん、看板はどうあれ、一緒に何かをすることが嬉しいシーナには特に異論はない。
「その線で行こうよ。メインはグレミオさんってことで! だって毎年グレミオさん置き去りだもんな。実はオレとルックにヤキモチ焼いたりしてるんじゃないの?」
ぱちくりとレイは目をしばたたかせた。
「……なんでわかるの? 戻ってくるたびに、羨ましそうというか淋しそうに話聞きたがるって」
「大体わかるよ。ってか、やっぱそうだったんだ。じゃ今回はレイの保護者孝行も兼ねて、だな」
「シーナの保護者様は?」
「…………オレは……えーと、いいや」
ルックが小さく吹き出した。