〜 Happy Halloween Fourth Season 〜
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大勢に見送られ、3人はグレッグミンスターを後にした。
さすがにこれだけの荷物を持って歩いて帰るのは相当キツいので、ルックの転移魔法でバイオスフィア城まで飛んだ。
おかげで移動に使う時間が省け、そのぶんゆっくりはできたが……。
戻ってきたのは、静かな静かな、シーナの部屋。
「んー、まあ、これからは地味めで行くとして……」
「ここまでの流れが派手だったね」
シーナのつぶやきに背を伸ばしながら答えて、レイはこれまでの大騒ぎを思い出して笑う。
「派手だったけど、かえって僕は何もしなくていいから楽だったな」
肩をすくめて、ルック。
たしかに、とレイも頷いた。
あれから……。
噂を聞きつけたメンバーがあれやこれやと自分が作ったお菓子を持ち寄ってきたのだ。
ソニアや、マリーや、セイラや……。
なんだかこれって同窓会?
くらいのノリになってしまい、結局ルックはかなりの確率で部屋に引き籠もっているハメになった。
ルック自身もレイの部屋に居心地の良さを感じてしまったようで、気が付くとレイの机で本を読んでいた。
はからずもルックの思い通り、ルックおさんどん得意説は流布することなくレイとシーナの胸の内に留められたというわけだ。
つまりは共同作業をするタイミングも減ったと言うことだが、階段を上ればすぐに会える距離だったから、シーナも納得していた様子で。
「っしゃ。じゃあ、明日の本番に向けて! テントの設営に参りますかー」
元気の有り余っているらしいシーナがぐっと拳を握る。
たしかにシーナにしてみれば、レイとルックとずっといられたのだから、英気は十分に養えた、というところだろう。
あまりにも現金で素直な反応がくすぐったくて、レイは肩をすくめた。
「……はい、はい。僕も行くよ。ルックは……」
「力仕事は勘弁して」
「だよね。ふたりでも十分…」
「僕は、ラッピングの仕上げしてるから」
え。
レイとシーナは思わずルックを見つめてしまう。
レイの言葉にかぶせるように告げられた言葉は、なんとも自発的な言葉。
「なに?」
そのルックに睨まれて、ふたりは慌てて荷物を置いた。
「あ、じゃ、行こか、レイ」
「そっ、そうだね。いってきま〜す!!」
ばたばたと逃げ出すように、ふたりは部屋を飛び出した。
ヘタな言葉で機嫌を損ねない方が賢明だろう。
城中がざわついている。
準備に走り回る人、飾り付けに余念がない人、日だまりで休む人。
それぞれがその人なりにこの祭を楽しんでいるのだろう。
浮ついた空気だと思うが、それは決して悪い意味ではない。
ふたりがやってきたのは、本当に図書館の横。
木材と布、それに箱がひとつ置いてある。
「へーえ、いい場所だね」
「だろ? ユウキに『レイもいるんだぜ?』って耳打ちしたらこの通り」
「それって……公平性に欠けるんじゃないかなぁ」
「うっ。そう言っちゃうと元も子もないんだけどさ。でもでも、イの一番に名乗り出たのはオレだからね。早い者勝ちの論理から行けば問題ないって」
自慢げにシーナは胸を張る。
まったく、仕方のない奴だ。
もとから軽いところが多々あるシーナだが、レイとルックのことに関してはいつも以上に大人げなく、特にレイを巡っては毎年ユウキとバトルを繰り広げている。
そういえば…今年はそのユウキを見ないが。
「ね、今年はユウキの姿を見ないけど」
「えー。オレといるのにユウキのことが気になるわけ?」
「馬鹿、そんなんじゃないよ。忙しいって話だったけど、毎年ここにくるとおまえといざこざ起こしてたから、今年も突然現れるのかなって思っただけだよ」
「そりゃあなー。あいつもイベント取り仕切る立場だから、オレと喧嘩してる暇ないんじゃない? でも、オレがこの場所を取る条件として、『必ずレイを連れてくること』は必須だったみたいだけどな」
「ふぅん。じゃあそのうち来るのかな」
「じゃね? オレは別に来なくてもいいんだけど……」
ぶつぶつと、シーナ。
まったく、「そんなんじゃない」と言っているのに。
「ほらほら、シーナ。さっさと仕度しよ。そっち、持って」
「はいはーい」
真ん中に支柱を1本、横に数本、紫紺の柔らかな布をかけて固定する。
ふたりが入ってちょうどいいくらいの小さなテント。
その後ろにはさらに小さな同じ型の白いテントを張り、手前のテントとカーテンで仕切るだけで繋がるようにする。
随分簡単な作りだけれど、そこにそれっぽい小物をぶらさげ、なんとなく雰囲気を出す。
それは単純な作業。
でも、楽しい。
城の人々がわいわいと飾り付けをしているのが、なんとなくわかる気がした。
シーナと他愛ないおしゃべりをしながら、飾り付けはまもなく終わる。
と。
噂をすれば影、とはよく言ったもので。
「あーーーーーっっっっ」
突然、大きな声。
レイは驚いたように、シーナは悔しそうに、ばっと振り向いた。
駆けてくるのは、予想通り、ユウキだ。
「レイさんっ、おひさしぶりです!!!」
「あっ、あぁ、ユウキ。久しぶり」
「今年も僕たちのお祭りのために、ようこそいらっしゃいました!」
オレのためだって、とぼそりとシーナが呟く。
「たくさん店ができてるね」
「ええ、露店とか、フリーマーケットもやるんです。近隣の人たちも招いてるんですよ」
「すごいね。ユウキの企画力だ」
「そんな、僕なんて。まわりのみんなが支えてくれるからです!」
「みんなが支えてくれるのは、ユウキが支えるに値するからだろ?」
「いえいえ、そんな……」
にこにことユウキと喋りながら、レイは背中に視線を感じている。
見なくともわかる、シーナが見ているのだ。
ユウキにヤキモチを焼いてもしょうがないんだけどな、とレイは思う。
「まだ、設営には時間がかかるんだ」
「そうなんですよー。でも、皆さんに楽しんでいただくために、頑張りますから!」
「ほどほどにね」
「はいっ! それじゃ、またー」
ぱたぱたと走り去る背中。
レイはそれに手を振ったまま、後ろの視線に話しかけた。
「……なーにやってんだよ」
ちらりと見て、頭を抱える。
どう考えたって収まりきるはずのない中央の支柱の陰で、シーナがじっとこっちを見ている。
「いや……。見てろよ、ユウキ。明日はぎゃふんと言わせてやるからなっ!」
「まったく……」
もしかしたらこのふたり、バトルを楽しんでいるのではなかろうか。
それにしても……ユウキは普通の格好をしていたが。
普通の格好をしたユウキなんて、随分久しぶりに見た気がする。
ここのところ奇抜な衣装ばかり見ていたせいか、それがなんだかおかしかった。