September 14th, 2000
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風が、砂をさらっていく。
巻き上げられた砂は視界をよどんだ黄色に染め、丘を谷に、谷を丘に変えていった。
それは、いつもの光景。
そうして風は地形を造りかえ、永遠に完成することのない迷宮を描く。
大地は、砂に覆われていた。
見渡す限り、灼けつく砂漠だった。
果ての見えぬほど続くそれは、ほとんど生き物を受け付けない死の世界。
実際、身体から水分を失わないように進化した、小さな表面積の動物が時折顔を出す以外は、砂漠の中には生き物の影はない。
いや、茶の幌をかけた車が砂塵をあげ走っていくことがあった。
キャラバンたちだ。
生命とは強いものだ。
どんな過酷な状況であっても、生き抜くことができる。
人間もまたその例に漏れず、砂漠に点在するわずかなオアシスの周りでささやかながらも穀物を育て、家畜を育てして暮らしているのだ。
人々は、そのオアシスを『まち』と呼んだ。
その砂漠には、3つの大きな『まち』があるという。
ひとつは、水を縁とする戦いの神をあがめる『まち』。
またひとつは大地に縁する豊穣の神をあがめる『まち』。
そして残りのひとつは、火に縁する生命の神をあがめる『まち』。
3つの『まち』はそれぞれ独立し、別々の神をあがめることで危うい均衡を保っていた。
どんなに豊かになろうとも、灼熱の砂漠で暮らす者にとって、水は宝のようなもの。
水に縁するとはいえ戦いの神の『まち』も慢性的な水不足に病んでいた。
しかし、生命の神をあがめる『まち』には砂漠の中で最も大きな湖があった。
戦いの神の『まち』は、その豊富な水を手に入れようと、過去に何度も生命の神の『まち』に戦を仕掛けた。
しかし生命の『まち』も必死に抗戦し、決着は未だにつかない。
今はどうにか膠着(こうちゃく)状態が続いている。
だが、小石のかけらでもぶつかれば、爆発してしまう。
そんなところまで来ていた。
誰が名付けたのか、長い時間の中で、戦いの神の『まち』は『銀のまち』、豊穣の神の『まち』は『黒のまち』、生命の神の『まち』は『白のまち』と呼ばれるようになった。
その、謂われも忘れ去られるくらいの時が経ったのだけれど。
果てしなく続く砂漠。
果てしなく続く抗争。
そのどちらにも、先は見えない。
そんな中で、束の間の平和に慣れてしまった白の民がいる。
『白のまち』は、それなりに平和で、それなりに豊かで、……そのぶん退屈な『まち』だった。
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